読書ノート / アジア史
 現代韓国の政治・経済・外交史を実証的に検証
2012/10/28
 国際政治のなかの韓国現代史 amazon
編・著者  木宮正史/著
出版社  出版者 山川出版社
出版年月  2012/04
ページ数  215 
判型  20.8 x 14.8 x 1.4 cm
税込定価  1575円 
 1945年8月から2012年2月までの現代韓国の歴史を、政治・経済を中心に検証しています。また、韓国の歴史は国際情勢との関係を抜きにしては語れないとの立場から、各時期の国際関係や北朝鮮の国内事情や外交政策も分析がなされています。
 さらに、大統領選の得票結果や各種経済統計など具体的データも豊富で、現在の韓国の政治・経済・外交を考えるための重要な資料を提供してくれます。本書は、まさに韓国現代史の基本書といえるでしょう。
 このような内容から、この本は一般向けの教養書というよりも、大学の学部向けの教科書という方がふさわしいかもしれません。著者も次のように述べています(1ページ)。
 本書は,過去15年くらい,私が勤務した,東京大学教養学部地域文化研究学科・法学部,さらに,早稲田大学などで担当してきた,韓国および朝鮮半島の現代政治史に関する講義内容を基にしたものである。そして,そうした授業のテキストとして使うことを想定したものである。したがって,基本的には韓国を対象とするが,韓国現代史の展開を規定した最も重要な力学は北朝鮮との体制競争であったという点を考慮し,北朝鮮の現代史に関する最低限の記述は必要だと考え,各章の補説で北朝鮮現代史についても概観した。
 韓国現代政治に関する講義を担当するうちに,大学の学部生だけでなく,もう少し広い範囲の読者を念頭に置くようになった。市民講座では,大学での授業とはまた違った意味で,「知りたい」「考えてみたい」という受講者の熱気に包まれた。今でも,自らが主催するシンポジウムなどにも来ていただいている。そうした方々にもぜひとも手に取って読んでいただきたい。
 そして、「序章 韓国現代史をどのように見るか 政治学と現代史の接点」は、次のような出だしで始まり、7ページから13ページまでにわたり、著者の主張が展開されていきます。私のような一般社会人の読者としては、さすがに読了することはしんどいので、この部分はパスして、本論から読み始めることにしました。この序章の部分は、本書のエッセンスをまとめたものなので、本論を読み終えてから挑戦すると、すっきりと理解できます。
 韓国(大韓民国)現代史の展開のダイナミズムをいかに理解するか。これが,本書を貫く主題である。大学や市民講座で,韓国現代史もしくは韓国現代政治に関する授業を受け持つようになってからほぼ15年がたとうとしている。その間,受講生からの反応で最も多かったのは,韓国現代史はともかくダイナミックだということである。日本国憲法がいまだ改正経験が皆無であるのに対して,韓国憲法は制憲憲法以来9度の改正をへている。現憲法こそ,1987年に制定され,ほぼ四半世紀維持されているが,これは,韓国現代史では非常に稀有な例である。また,占領,戦争,革命,クーデタ,権威主義体制,民主化など,政治変動論の教科書に出てくる,ほぼすべての政治変動の事例を経験しているといっても過言ではない。こうした政治変動のダイナミズムはどこからどのように生まれるのか。
 本論は、1945年8月から始まります。日本の植民地支配終了後の朝鮮半島の政治情勢が、米軍の占領政策との関係において具体的かつ簡潔にまとめられています。
 その後の南北分裂から朝鮮戦争勃発まで政治史を中心に叙述が続きます。また、朝鮮戦争論争や北朝鮮情勢についても、補説として簡潔にまとめられていて、読みやすく工夫がなされています。
 続いて、李承晩政権の政治体制、経済・外交政策の叙述が続き、以下、政治・経済史の流れを中心に、国際情勢の変遷が韓国の国内情勢に与えた影響などを踏まえて、金正恩後継体制成立後の2012年2月までの韓国現代史が語られて行きます。

 具体的データも豊富なのが本書の特長ですが、たとえば次のような2002年大統領選の得票率(157ページ)は、民主党(現民主統合党、野党)とハンナラ党(現セヌリ党、与党)が、それぞれ全羅道と慶尚道を地盤とする地域政党としての色合いを残していることを物語っています。
 
 また、1994年ジュネーブ米朝枠組み合意と2005年9・19共同宣言を比較した次の表(145ページ)は、北朝鮮の核問題をめぐる両者の変遷が簡潔にまとめられています。
まさに、現代史と現在の国際政治との接点を示しているといえるでしょう。