読書ノート / 経済
(2022/5/22)
 不動産屋にだまされるな :「家あまり」時代の売買戦略
編・著者  山田寛英
出版社  中公新書ラクレ
出版年月  2017/1/10
ページ数  237 
本体定価  800円

●本当に買う方が得なのか
 不動産を買うのと借りるのと、どちらが得かについて著者は次のように述べています(44〜46ページ)。 

結論としては「買う」ほうが今はトク
 ほかの本ではこの話題を「虎の子」のように語る風潮がよく見られる。しかし、この本で はほかに語らないとならない、もっと価値ある話題が多いのでさっそく結論を述べたい。
 あくまで公認会計士の立場として私の結論を言えば、「買う」ほうが今はトク、である。理由は簡単。「賃貸=掛け捨て」であり、掛け捨てられる金額が単純にもったいないからだ。
 いろいろな考え方があるだろうが、ここでは会計上の「差額原価」という考え方を用いたい。これはいくつかの選択肢を前に、どれが有利かを判断するときに、共通してかかるコス トをまず無視することで、選択肢ごとに発生するいわばオリジナルなコストだけを抽出し、比較する方法だ。
 掛け捨てとなる金額、私が「無駄金(もちろん厳密にはムダではないものだが、あくまで 消費者の視点で見れば、である)」と呼ぶ、その額を以下に試算してみよう。

@賃貸の場合
無駄金の合計=30年間で3000万円
 毎月家賃8万円×12.5か月×30年の計算。条件として2年更新で年間0.5か月分の家賃を含む

A購入の場合
・無駄金の合計=30年間で合計951万円
 利息1%(固定)で3000万円を借り、3年払いで計算した利息が473万円。条件として不動産取得税や仲介手数料など、買う際の諸費用として1割にあたる300万円。さらに固定資産税と都市計画税が30年分として178万円(3000万円×0.7×1/6 ×1.7%×30年=178万円)

 差は2049万円となった。賃貸のほうが、はるかに無駄金が大きくなることが分かる。なお修繕費は、さらに次の30年後に対して効果が及ぶ支出なのでここでは考慮していない。
 また「元本3000万円の支払いが入っていない」とおっしゃる方がいるかもしれない。 しかし3000万円の現金については、3000万円分の所有権に交換しただけであり、購入者から見て、無駄金と呼ぶべき性質ではないだろう。 

 しかし、この説明には大きな疑問があります。
 「3000万円の現金については、3000万円分の所有権に交換しただけ」という前提が正しければ、951万円で3000万円の不動産を買ったことになるから、2049万円の儲けということになります(賃貸の場合でも、総額3000万円は払わなければならないから、951万円を追加するだけで、土地建物が手に入ることになる、という理屈です)。
 しかし、建物は年を経るごとに価値は減少しますから、「3000万円分の所有権」が残るわけではありません。
 首都圏のマンション価格は次のように下落しているそうです(マンション売却価格の推移を解説! 下落率や築年数から読める適切な売り時とは?)。

 マンションの価格は30年で3分の1になっていますから、3000万円のマンションなら1000万円ほどになってしまいます。「951万円で3000万円のマンションを買った」のではなく、「1000万円のマンションを買った」ことになるのです。
 さらに、マンションの場合は、管理費と修繕積立金、合わせて2万円ほどを毎月支払わなければなりません。定期的に修繕を行わなければ、マンションの価値を大きく損なうことになります。これらの経費は30年間で、720万円となります。とすると、1671万円で1000万円のマンションを買ったことになってしまいます。

●レインズ登録を義務付け  
 不動産売買の媒介契約には次の3種類があります(66ページ)。
@専属専任媒介契約…取り扱うことができるのは1社のみで、お客さんは自分で買い手を探すことができない。その代わり、不動産屋は物件情報をレインズへ5日以内に載せる義務がある
A専任媒介契約…取り扱うことができるのは1社のみだが、お客さんも自分で買い手を探すことができる。この場合、窓口となる不動産屋は、物件情報をレインズへ7日以内に載せる義務がある
B一般媒介契約…売却の依頼を複数社にお願いでき、お客さんも自ら買い手を探すことができる。その代わり、不動産屋が物件情報をレインズに載せるかどうかも自由 
 売買契約においては、仲介業者は売主と買主の双方から、仲介手数料を得ることができます。400万円を超える取引の場合は、「売買価格×3%+6万円」が上限です。次の図(68ページ)のように、専任媒介契約を結んだA社は、常に売主からの仲介手数料を得ることができます。しかし、専任媒介契約の効力は買主には及ばないので、買主は別のB社に仲介を依頼することもできます。

 A社としては、売主と買主の双方からの仲介手数料を独占するため、情報を非公開としたいところですが、物件情報をレインズへ載せることが、法律で義務付けられています。ただし、義務に違反しても、大臣や知事は「必要な指示をすることができる」だけで、罰則はありません(宅地建物取引業法65条1項)。
 レインズとは、不動産のデータベース情報を提供するポータルサイトで、地域別に4つあり、公益法人がそれぞれ運営しています(レインズとは? | REINS TOWER)。

 情報の登録と利用方法は次のようになっています。不動産売却の依頼を受けた仲介業者が物件情報と図面を登録します。登録されたデータは、希望条件を絞って検索できます。データは、一般消費者・会員等に提供するとなっていますが、業者しか閲覧できません。

●あの手この手で利益独占
 一部の仲介業者は、次のように(72〜73ページ)仲介手数料を独占するため、あの手この手の手段を尽くしているということです。
双方代理でまとめるためにテクニックは磨かれる
 不動産屋からすれば、双方代理は儲かる。そのため、なるべく双方代理で契約をまとめるべく、そのテクニックはさらに磨かれている。
 双方代理を成立させるためには、ほかの不動産屋を排除することが望ましい。だが、専属専任媒介契約を結べたとしても、不動産の情報サイトであるレインズへ契約から5日以内に登録、ほかの不動産屋の目に晒さなければいけない。そうした状況で、双方契約を取り付けたいと考えたならば、どうするか。
 もしかすると「そもそもレインズに載せない」と考えるかもしれない。当然、これは違法行為であるが、現実として「未公開物件」「非公開情報」と書かれたチラシや、街の看板を目にした読者の方は多いのではないだろうか。もちろんケースバイケースなので断言はしないが、「未公開」という言葉の意味するところを考えれば、その物件の情報を意図的に隠しているに相違ない。
「客にバレなければいい」という考え方に基づき、情報を自社内だけに留めておけば、ほかの不動産屋の目に晒されることは当然なくなる。もしくは美味しい情報は表に出さず、気心の知れた不動産屋仲間で融通し合うこともできる。
 一度レインズに載せても、すぐに消したり、ほかの不動産屋が問い合わせても「商談中です」とウソをついたりして排除する。こうなれば、競争原理は働かなくなる。
 こうした行為は、すべて利益や客を一人占めしようとする表れであり、業界用語で「囲い込み」と呼ばれる。 
 ただし、双方仲介は双方代理とは違って、民法で明確に禁止されているわけではありません。この点について、不動産流通推進センターの不動産相談は、「両手媒介は、民法第108条の双方代理や自己契約の禁止規定に抵触するものではない」とし、「一業者が双方を媒介した場合のほうが、間に入って解決に努力し、解決が早い」と述べています(両手媒介と「双方代理」の禁止規定との関係 | 公益財団法人不動産流通推進センター(旧不動産流通近代化センター))。
 この不動産流通推進センターとは、不動産業の近代化を推進するための公益財団法人で、レインズの開発や不動産業に従事する人材の育成、不動産ジャパンの運営などを主な業務としているそうです(不動産流通推進センターとは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産)。役員名簿を見ると、全国宅地建物取引業協会連合会はじめ業界関係者が大半を占めています。上記の両手媒介についての説明は、業界寄りの見解といえるのかもしれません。
 なお、新経済連盟は、一般媒介契約にもレインズへの登録義務化することを求めていますが、国土交通省は「対応不可」と回答しています(一般媒介にもレインズ登録の義務化を)。

●不十分なステータス管理機能
 双方仲介(両手媒介)は禁止されていないものの、「囲い込み」は公正な取引を阻害する可能性がありますから、次(74ページ)のように2016年からレインズに取引状況(ステータス)管理機能が付けられているそうです。
 そのような事態を前に、不動産の売買を管轄する国土交通省もようやく重い腰を上げた。
 たとえば16年1月以降、レインズに取引状況(ステータス)管理機能を付け、実際に商談中かどうか、一目で分かるようにした。これによって、売主である消費者自身、ステータスの部分だけ見ることができるようになっている。
 しかし、残念ながら囲い込みはまだなくなっていない。講じた対策を不動産屋は軽々と乗り越え、むしろ売買のテクニックはさらに磨かれている。 
 ステータス画面は次のようになっています( 売却依頼物件のレインズ登録内容が確認できます)。

 取引状況は次のように表示されます。実際に商談中かどうかは表示されません。「書面による購入申込みあり」と表示しておけば、問い合わせには「商談中」と答え、売主には「まだ商談には入っていない」と説明すれば、囲い込みが可能になる恐れもありそうです。

 福岡県宅地建物取引業協会では、「ふれんず」という不動産情報検索サイトを独自に運営しています。このサイトでは、取引状況は次のように表示されます(福岡県不動産会館・ふれんず事務局からのお知らせ)。「商談中」なら売主に交渉内容を報告しなければなりませんし、「書面による購入〔入居〕申込みあり」なら、新たな申し込みも受け付けなければなりません。こうすれば、不当な囲い込みを封じることができます。

 さらに、「ふれんず」では、取引状況は一般に公開されています。


●性悪説に立って、十分な注意が必要
 さらに、次のように、レインズに登録しなくてよい一般媒介契約による囲い込みもあるようです(75〜76ページ)。不動産業者を相手にするときは、性悪説に立って、十分な注意が必要となりそうです。
 一般媒介契約の状況で、「この不動産屋以外では家を売らない」と客が考えてくれた場合、レインズに情報を流通させなくていいのだから、自分のところだけで情報を留め、「未公開物件」にできる。当然、ステータス機能なども意味がなくなり、囲い込みを続けることができる。そうなれば双方代理を通じて安く売りぬく、いつものパターンへ持ち込むことが可能となる。
 こうした状況が、消費者にとって一概に悪いとは言えないが、自分の利益が損なわれる結果になっていないか、注意はしておいたほうがいいだろう。
 そもそも、物件がレインズに登録されれば『登録証明書』が発行される。もしあなたが不動産屋に売却を依頼したのならば、期日どおりにこの登録証明書が発行されているかどうか、それぐらいは不動産屋にしっかり確認するべきである。 

●賃貸にも囲い込みはあるのか
 本書では、不動産売買の仲介業者による囲い込みについて述べていますが、賃貸については触れていません。賃貸にも囲い込みがあるという記述がネット上でも見られますが、いずれも具体的なデータは示していません。
 私は、賃貸にも囲い込みがあるにしても、売買におけるほどではないと思います。その理由は、実質的に手数料の両取りができないことと、取引の繁忙期が限定されていることにあります。
 賃貸の仲介手数料は、宅建業法により、「国土交通大臣の定めるところによる」とされていて(宅地建物取引業法46条(報酬))、国土交通省の告示により、貸主と借主それぞれからの手数料は、家賃月額の0.55倍以内(税込み)で、合わせて1.1倍以内とされています。ただし、依頼者の承諾を得ている場合は1.1倍まで請求できます。その場合でも、合わせて1.1倍以内という制限は変わりません(宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号)。
 大家から依頼を受けた仲介業者(元付業者と呼ばれます)は、両取りしたも手数料は上限の1ヶ月分(税別)にしかなりません(仲介手数料とは)。

 入居者から依頼を受けた仲介業者(客付業者と呼ばれます)が加わると、それぞれ0.5ヶ月分の手数料を受け取ることになります。これが、法の想定した形態といえるのかもしれません。

 しかし、実際には客付業者は1ヶ月分の手数料を要求するのが通例になっています。とすると、元付業者の取り分がなくなってしまいますが、元付業者は広告費という名目で、大家から料金を徴収することによって、帳尻を合わせているようです。国土交通省の告示でも、「依頼者の依頼によつて行う広告の料金に相当する額」を受け取ることは認められています(宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号)。ただし、その解釈については、見解が分かれています。

 不動産売買の仲介では、囲い込みが問題となっていますが、賃貸では、過大な広告費の請求が問題となっているようです。

●マイソクは実情を物語る
 不動産賃貸では、次のような(【客付できる募集図面(マイソク)事例】入居率97%を実現する不動産投資家の空室の募集図面(マイソク)を使って賃貸仲介営業マンをその気にさせる方法【無料テンプレート配布】|モーガンの築古不動産投資)マイソクと呼ばれる広告チラシが作られます。

 このチラシ(マイソク)は、元付業者が作成し客付業者に配布しています。客付業者はマイソクをもとに入居希望者への説明を行います。
マイソクの画像データはレインズに登録できます。毎日速報センター(現在のマイソク)という会社が、このチラシの作成を請け負っていたので、マイソクと呼ばれるようになったそうです。
 上記の画像はマイソクのサンプルですが、不動産賃貸業界の実情を物語っています。
 右下の手数料は、仲介手数料のことで、借主が客付業者に家賃の1ヶ月分を支払うことを意味します。1ヶ月分を請求するためには依頼者の承諾が必要ですが、そんなことはお構いなしに業者間で勝手に取り決められています。ADとは広告費という名目で、家主から客付業者に支払われる追加手数料を指します。
 賃貸不動産屋の繁忙期は1〜3月と9〜10月ですが(賃貸不動産屋の繁忙期と閑散期はいつ?お部屋探しで注意すべきことは?)、これらの時期は空室が埋まりやすいため、ADは無かったり、あったとしても相場は低く、逆に閑散期は人の動きが少なく空室が埋まりにくいため、家賃の1〜2か月分を設定するそうです(不動産賃貸仲介のAD(広告料)とは?仲介手数料との違いや相場を解説【スマイティ 賃貸経営】)。
 賃貸不動産については、繁忙期に取引が集中するため、囲い込みをしていれば、チャンスを逃すことになってしまいます。

●裁判所は、法的問題を示唆
 ところで、依頼者の承諾なく1ヶ月分の仲介手数料を要求することや、広告費という名目で追加手数料を要求することに法的問題はないのでしょうか。これらについて、裁判所は、法的問題を示唆する、いくつかの判断を示しています。
 仲介手数料については、2020年1月14日の東京高裁判決で差額分の返還請求を認める地裁判決が確定しています(賃貸の仲介手数料の上限は半月分)。この裁判では、業者側は、家賃1ヶ月分の仲介手数料を記載した明細の交付した段階で承諾があったと主張したのに対し、裁判所は、申し込みの段階で仲介手数料は家賃1ヶ月分であることを説明しなかったので承諾があったことにはならないと判断しました。
 ただし、この判断によっても、SUUMO(スーモ)やLIFULL HOME'S(ライフルホームズ)などの賃貸住宅紹介サイトを利用する場合は、仲介手数料は物件の紹介ページに掲載されているので、承諾があったとみなされることになりそうです。従って、インターネットを通じて部屋を借りる場合は、承諾する意思のないことを明確に示しておく必要がありそうです。
 広告費については、1982年9月28日に東京高裁は判決で、報酬とは別に請求できるのは、「大手新聞への広告掲載料等報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金を意味するものと解すべき」と述べています。
 また、賃借人が賃貸人に払った礼金を、広告料名目で仲介会社が取得する合意について、東京地裁は2013年6月26日判決で「宅建業法の定めに違反し、無効」としています(宅建業者が仲介行為を行う場合の広告の料金)。
 さらに、広告料名目の金員請求について、東京地裁は2015年7月9日判決で不法行為に基づく損害賠償請求を認めました( 最近の判例から (8) 広告料名目の報酬)。この事案は次のようなものです。
1年を経過しても借主が決まらなかった賃貸建物の所有者が、元付業者と相談し、フリーレント2ヶ月、賃料1ヶ月分の礼金を広告料名目で客付業者に支払う、という条件のマイソクを作成した。それを見た客付業者がフリーレントの項目を削除し借主との契約を成立させ、広告料名目で3ヶ月分242万円余を建物所有者に支払わせた。 
 結局、借主が受け取るはずであったフリーレント2ヶ月の利益と、建物所有者が受け取るはずであった賃料1ヶ月分の礼金を、客付業者がそっくり横取りしたことになります。
 裁判所は、「客付業者は、長期間本件不動産の借主が決まっていないことを知った上で、当初から、宅建業法の報酬規制に抵触しないよう元付業者を介して、建物所有者に賃料3ヶ月分の金銭を支払わせる意図であった」とし、不法行為の成立を認めました。

仲介手数料は、弁護士報酬並み?
 著者は、次のように述べて、不動産売買の仲介手数料は、弁護士報酬並みの「破格」とまで言える価格だ、と指摘しています(86〜88ページ)。なお、本書の出版当時の消費税率は8%でした。

仲介手数料は士業の報酬と比べても「高い」
 先ほど「双方代理」の話題で、仲介手数料について解説した。売主か買主、いずれかを仲介すれば消費税別で「物件価格×3%+6万円」となる。実際にはどれくらいの金額になるか、消費税まで含めて以下に計算してみたい。

・3000万円の物件で、103万円
・5000万円の物件で、168万円
・7000万円の物件で、233万円
・1億円の物件で、330万円

 不動産仲介をするための資格である「宅地建物取引士資格試験」、通称「宅建」の合格者は、平成27年4月1日より「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」へと名称を変えた。弁護士や税理士などと同じ、士業へと仲間入りしたわけだ。
 しかし先述した仲介の報酬額は、同じく士業である公認会計士の私から見ても、高すぎるという印象がある。ほかの士業と報酬を比較してみよう。
 今現在、税理士や司法書士、不動産鑑定士はその報酬を自由に決めることができ、専門家ごとにその額には幅がある。もちろんほかの士業や土地家屋調査士の報酬は状況によるものだし、弁護士報酬もクライアントや事件内容によって大きく変わるものだろうから、直接的に比較対象にはできない。
 しかし私の認識として、土地家屋調査士が不動産を測量したとして、その費用は高くとも100万円ぐらいまでには収まるはずだし、弁護士報酬は経済的利益の概ね3%から、高くとも8%前後くらいで収まるはずだ。
 だからこそ、こうして比較してみると、宅地建物取引士の報酬の高さが際立つ。士業が得る報酬額の認識として、「物件価格×3%+6万円」は「破格」とまで言える価格で、桁を間違えているのでは、という印象すら私は覚える。とりあえず現状の不動産の仲介手数料は、ほぼ「弁護士報酬並み」と言えるだろう。 

 他の士業と報酬額を比較すると次のグラフのようになります(87ページ)。このグラフを見る限りでは、不動産売買の仲介手数料は極端に高い印象を受けます。しかし、高額の中古マンションの数は限られていて、全国レベルでは平均価格は、2000万円以下です。

 では、不動産売買の仲介手数料はどれぐらいが妥当かについては、著者は次のように「上限として30万円くらい」と述べています(89〜90ページ)。
仲介手数料はどれくらいの額が妥当か
 では、不動産屋と話し合いを通じて仲介手数料を決めることになったとして、いくらくらいが妥当なのだろうか。
 これもあくまで私見だが、資格取得の難易度や取り扱う業務の複雑さ、専門性から考慮するに、税理士や司法書士より、宅地建物取引士の報酬が高い状況は、いささか納得がいきにくい。「相手との交渉があるし、税理士などのいわゆる『代書屋』より報酬は高くていい」と主張するとしても、土地家屋調査士だって隣人との折衝があるわけで、不動産の評価を決めるために手間が多い不動産鑑定士の報酬より高いのは、やはり違和感が残る。
 そう考えたとき、税理士や司法書士の報酬と、土地家屋調査士や不動産鑑定士の報酬の間がふさわしいように感じられる。たとえば1億円までのマイホームの売買なら、上限として30万円くらいが「妥当」な額ではないだろうか。
 しかし、不動産売買の仲介の場合は、ポータルサイトの掲載料やチラシ作成料などの広告費、現地案内のための人件費や交通費がかかりますし、これらの費用は必ずしも成約に結びつくとは限りません。したがって、顧客の来るのを待っていて事務処理だけすれば良い税理士や司法書士の業務と単純に比較することはできないように思われます。