●本当に買う方が得なのか 不動産を買うのと借りるのと、どちらが得かについて著者は次のように述べています(44〜46ページ)。
「3000万円の現金については、3000万円分の所有権に交換しただけ」という前提が正しければ、951万円で3000万円の不動産を買ったことになるから、2049万円の儲けということになります(賃貸の場合でも、総額3000万円は払わなければならないから、951万円を追加するだけで、土地建物が手に入ることになる、という理屈です)。 しかし、建物は年を経るごとに価値は減少しますから、「3000万円分の所有権」が残るわけではありません。 首都圏のマンション価格は次のように下落しているそうです(マンション売却価格の推移を解説! 下落率や築年数から読める適切な売り時とは?)。 マンションの価格は30年で3分の1になっていますから、3000万円のマンションなら1000万円ほどになってしまいます。「951万円で3000万円のマンションを買った」のではなく、「1000万円のマンションを買った」ことになるのです。 さらに、マンションの場合は、管理費と修繕積立金、合わせて2万円ほどを毎月支払わなければなりません。定期的に修繕を行わなければ、マンションの価値を大きく損なうことになります。これらの経費は30年間で、720万円となります。とすると、1671万円で1000万円のマンションを買ったことになってしまいます。 ●レインズ登録を義務付け 不動産売買の媒介契約には次の3種類があります(66ページ)。
A社としては、売主と買主の双方からの仲介手数料を独占するため、情報を非公開としたいところですが、物件情報をレインズへ載せることが、法律で義務付けられています。ただし、義務に違反しても、大臣や知事は「必要な指示をすることができる」だけで、罰則はありません(宅地建物取引業法65条1項)。 レインズとは、不動産のデータベース情報を提供するポータルサイトで、地域別に4つあり、公益法人がそれぞれ運営しています(レインズとは? | REINS TOWER)。 情報の登録と利用方法は次のようになっています。不動産売却の依頼を受けた仲介業者が物件情報と図面を登録します。登録されたデータは、希望条件を絞って検索できます。データは、一般消費者・会員等に提供するとなっていますが、業者しか閲覧できません。 ●あの手この手で利益独占 一部の仲介業者は、次のように(72〜73ページ)仲介手数料を独占するため、あの手この手の手段を尽くしているということです。
この不動産流通推進センターとは、不動産業の近代化を推進するための公益財団法人で、レインズの開発や不動産業に従事する人材の育成、不動産ジャパンの運営などを主な業務としているそうです(不動産流通推進センターとは|不動産用語集|三井住友トラスト不動産)。役員名簿を見ると、全国宅地建物取引業協会連合会はじめ業界関係者が大半を占めています。上記の両手媒介についての説明は、業界寄りの見解といえるのかもしれません。 なお、新経済連盟は、一般媒介契約にもレインズへの登録義務化することを求めていますが、国土交通省は「対応不可」と回答しています(一般媒介にもレインズ登録の義務化を)。 ●不十分なステータス管理機能 双方仲介(両手媒介)は禁止されていないものの、「囲い込み」は公正な取引を阻害する可能性がありますから、次(74ページ)のように2016年からレインズに取引状況(ステータス)管理機能が付けられているそうです。
取引状況は次のように表示されます。実際に商談中かどうかは表示されません。「書面による購入申込みあり」と表示しておけば、問い合わせには「商談中」と答え、売主には「まだ商談には入っていない」と説明すれば、囲い込みが可能になる恐れもありそうです。 福岡県宅地建物取引業協会では、「ふれんず」という不動産情報検索サイトを独自に運営しています。このサイトでは、取引状況は次のように表示されます(福岡県不動産会館・ふれんず事務局からのお知らせ)。「商談中」なら売主に交渉内容を報告しなければなりませんし、「書面による購入〔入居〕申込みあり」なら、新たな申し込みも受け付けなければなりません。こうすれば、不当な囲い込みを封じることができます。 さらに、「ふれんず」では、取引状況は一般に公開されています。 ●性悪説に立って、十分な注意が必要 さらに、次のように、レインズに登録しなくてよい一般媒介契約による囲い込みもあるようです(75〜76ページ)。不動産業者を相手にするときは、性悪説に立って、十分な注意が必要となりそうです。
●賃貸にも囲い込みはあるのか 本書では、不動産売買の仲介業者による囲い込みについて述べていますが、賃貸については触れていません。賃貸にも囲い込みがあるという記述がネット上でも見られますが、いずれも具体的なデータは示していません。 私は、賃貸にも囲い込みがあるにしても、売買におけるほどではないと思います。その理由は、実質的に手数料の両取りができないことと、取引の繁忙期が限定されていることにあります。 賃貸の仲介手数料は、宅建業法により、「国土交通大臣の定めるところによる」とされていて(宅地建物取引業法46条(報酬))、国土交通省の告示により、貸主と借主それぞれからの手数料は、家賃月額の0.55倍以内(税込み)で、合わせて1.1倍以内とされています。ただし、依頼者の承諾を得ている場合は1.1倍まで請求できます。その場合でも、合わせて1.1倍以内という制限は変わりません(宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号)。 大家から依頼を受けた仲介業者(元付業者と呼ばれます)は、両取りしたも手数料は上限の1ヶ月分(税別)にしかなりません(仲介手数料とは)。 入居者から依頼を受けた仲介業者(客付業者と呼ばれます)が加わると、それぞれ0.5ヶ月分の手数料を受け取ることになります。これが、法の想定した形態といえるのかもしれません。 しかし、実際には客付業者は1ヶ月分の手数料を要求するのが通例になっています。とすると、元付業者の取り分がなくなってしまいますが、元付業者は広告費という名目で、大家から料金を徴収することによって、帳尻を合わせているようです。国土交通省の告示でも、「依頼者の依頼によつて行う広告の料金に相当する額」を受け取ることは認められています(宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号)。ただし、その解釈については、見解が分かれています。 不動産売買の仲介では、囲い込みが問題となっていますが、賃貸では、過大な広告費の請求が問題となっているようです。 ●マイソクは実情を物語る 不動産賃貸では、次のような(【客付できる募集図面(マイソク)事例】入居率97%を実現する不動産投資家の空室の募集図面(マイソク)を使って賃貸仲介営業マンをその気にさせる方法【無料テンプレート配布】|モーガンの築古不動産投資)マイソクと呼ばれる広告チラシが作られます。 このチラシ(マイソク)は、元付業者が作成し客付業者に配布しています。客付業者はマイソクをもとに入居希望者への説明を行います。 マイソクの画像データはレインズに登録できます。毎日速報センター(現在のマイソク)という会社が、このチラシの作成を請け負っていたので、マイソクと呼ばれるようになったそうです。 上記の画像はマイソクのサンプルですが、不動産賃貸業界の実情を物語っています。 右下の手数料は、仲介手数料のことで、借主が客付業者に家賃の1ヶ月分を支払うことを意味します。1ヶ月分を請求するためには依頼者の承諾が必要ですが、そんなことはお構いなしに業者間で勝手に取り決められています。ADとは広告費という名目で、家主から客付業者に支払われる追加手数料を指します。 賃貸不動産屋の繁忙期は1〜3月と9〜10月ですが(賃貸不動産屋の繁忙期と閑散期はいつ?お部屋探しで注意すべきことは?)、これらの時期は空室が埋まりやすいため、ADは無かったり、あったとしても相場は低く、逆に閑散期は人の動きが少なく空室が埋まりにくいため、家賃の1〜2か月分を設定するそうです(不動産賃貸仲介のAD(広告料)とは?仲介手数料との違いや相場を解説【スマイティ 賃貸経営】)。 賃貸不動産については、繁忙期に取引が集中するため、囲い込みをしていれば、チャンスを逃すことになってしまいます。 ●裁判所は、法的問題を示唆 ところで、依頼者の承諾なく1ヶ月分の仲介手数料を要求することや、広告費という名目で追加手数料を要求することに法的問題はないのでしょうか。これらについて、裁判所は、法的問題を示唆する、いくつかの判断を示しています。 仲介手数料については、2020年1月14日の東京高裁判決で差額分の返還請求を認める地裁判決が確定しています(賃貸の仲介手数料の上限は半月分)。この裁判では、業者側は、家賃1ヶ月分の仲介手数料を記載した明細の交付した段階で承諾があったと主張したのに対し、裁判所は、申し込みの段階で仲介手数料は家賃1ヶ月分であることを説明しなかったので承諾があったことにはならないと判断しました。 ただし、この判断によっても、SUUMO(スーモ)やLIFULL HOME'S(ライフルホームズ)などの賃貸住宅紹介サイトを利用する場合は、仲介手数料は物件の紹介ページに掲載されているので、承諾があったとみなされることになりそうです。従って、インターネットを通じて部屋を借りる場合は、承諾する意思のないことを明確に示しておく必要がありそうです。 広告費については、1982年9月28日に東京高裁は判決で、報酬とは別に請求できるのは、「大手新聞への広告掲載料等報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金を意味するものと解すべき」と述べています。 また、賃借人が賃貸人に払った礼金を、広告料名目で仲介会社が取得する合意について、東京地裁は2013年6月26日判決で「宅建業法の定めに違反し、無効」としています(宅建業者が仲介行為を行う場合の広告の料金)。 さらに、広告料名目の金員請求について、東京地裁は2015年7月9日判決で不法行為に基づく損害賠償請求を認めました( 最近の判例から (8) 広告料名目の報酬)。この事案は次のようなものです。
裁判所は、「客付業者は、長期間本件不動産の借主が決まっていないことを知った上で、当初から、宅建業法の報酬規制に抵触しないよう元付業者を介して、建物所有者に賃料3ヶ月分の金銭を支払わせる意図であった」とし、不法行為の成立を認めました。 仲介手数料は、弁護士報酬並み? 著者は、次のように述べて、不動産売買の仲介手数料は、弁護士報酬並みの「破格」とまで言える価格だ、と指摘しています(86〜88ページ)。なお、本書の出版当時の消費税率は8%でした。
では、不動産売買の仲介手数料はどれぐらいが妥当かについては、著者は次のように「上限として30万円くらい」と述べています(89〜90ページ)。
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