読書ノート / 経済
 新興アジアへの企業進出のすすめ

 空洞化のウソ 日本企業の「現地化」戦略(講談社現代新書) 講談社
編・著者  松島大輔/著
出版社  講談社
出版年月  2012/7/20
ページ数  254 
判型  18cm
税別定価  760円 
 原発再稼動や法人税引き下げを訴えるマスコミの論調の中で、産業空洞化の話が引き合いに出されます。原発を動かさないと電気代が上がり企業が海外に出て行ってしまう。同様に、法人税が高いと、企業が海外に出て行ってしまう。その結果、産業空洞化がどんどん進んでしまう。だから、原発は動かさないといけないし、法人税はもっと引き下げないといけない、というものです。
 そんな話を聞くと、このままでは日本全体がさびれてしまうのではないかと不安を感じてしまいます。しかし、電気代が値上がりしたり、法人税が安くならないというだけで、日本の企業が退去して海外に出て行ってしまうということがありえるのかな、と疑問も生じます。
 そもそも、産業空洞化とはどのような状態を指すのか、それが本当に起こっていることが、客観的データによって、実証されているのでしょうか。よく分からないことばかりです。
 そこで、「空洞化はウソだ」と主張しているらしい、この本を読んでみることにしました。
 目次は、次のようになっています。
はじめに
第一章 「空洞化」を怯えてはいけない
 1 未来が空洞化するとき――「空洞化」はほんとうに起こっているのか?
 2 海外で稼いだお金は日本国内に還流しない?
 3 日本企業の海外進出が技術水準を低下させる?
 4 日本企業の海外進出で国内雇用は減る?
 5 「空洞化」論が招く未来の空洞化
第二章 「新興アジア」における「現地化」のススメ
 1 「新興アジア」で進行していること――日本経済との対比で
 2 「新興アジア」のほんとうの意味
 3 「新興アジア」各国の日本企業誘致合戦
 4 ルール作りゲーム――「賭金」としての日本企業
 5 日本企業の「新興アジア」における「現地化」の意義――モノ(企業)の「現地化」
 6 ひきこもる日本企業
 7 和僑のススメ――ヒトの「現地化」
 8 日本型「投資立国」――カネの「現地化」
第三章 「新興アジア」を活用した日本改造
 1 日本というシステムの課題
 2 「新興アジア」戦線で露呈する日本の課題
 3 「作れるもの」から「欲しいもの」へ
 4 「日本入ってる」で「新興アジア」をめざせ
 5 「新興アジア」が日本を変える
 6 日本に錦を飾る出世魚中小企業――下請構造からの卒業
 7 日本のアジア化とアジアの日本化
おわりに
 目次から明らかなように、この本で産業空洞化を扱っているのは第一章だけです。
 それも、日本企業の海外への進出が空洞化を招くという批判に反論することに主眼があり、空洞化そのものを正面から取り上げたものではありません。
 この本の狙いは、第二章、第三章で述べているように、日本企業の「新興アジア」への進出を促すことにあります。さしずめ「新興アジアへの企業進出のすすめ」と名付けた方がふさわしかったかもしれません。
 第一章では、従来の空洞化論を次のように批判しています(17ページ)。
 「空洞化」論については、これまで多くの議論がなされてきました。しかし、日本企業の海外進出、特に「現地化」によって国内産業が「空洞化」してきた、という学理的根拠、実証結果はありません。そもそも「空洞化」という現象自体がきわめて曖昧かつ直感的な議論しかなされておらず、考察の対象とする場合には注意が必要です。
 そして、空洞化による弊害は、@国内雇用の減少、A技術水準の低下、B資本の流出、にあるとされているが、それらは杞憂であるとしています(18ページ)。
 
 確かに、国際間の資金移動は自由になっていますから、海外で稼いだお金が国内に還流しないと一概には言えないでしょうし、還流を妨げているのは税制の問題と言えそうです。
 また、製造部門を海外に移転する理由は、主に人件費が安いからでしょうから、国内の技術水準が低下するというのは、まさに杞憂でしょう。
 国内雇用については、次のように述べて、企業の現地化によって逆に増えると主張しています(42ページ)。
 まず国内における海外ビジネスを検討する企画立案・新規開発部門の拡大です。未知の世界である海外に「現地化」することは、当然ながら、これに対応する人材が必要になります。しかもこうした経営の根幹にかかわる部分、つまり企画立案部門であり、新製品開発のエンジニアであり、付加価値の高い分野に雇用を拡大することができるのです。こうした企画、開発を担当する部門の雇用が拡大するという、雇用の質にも着目する必要があります。現に、すでに「現地化」の先端をゆくような日本の自動車メーカーは、国際企画・開発部門を拡大させており、こうした部門での競争力が、今後の会社全体の成功の帰毬を占うことになるのです。
 確かに、自動車メーカーが現地生産する場合は、それによって国内の雇用が減少するわけではありません(増えるはずの雇用が増えなかったとは言えるでしょうが)し、「企画、開発を担当する部門の雇用が拡大するという」という効果もあるでしょう。また、ユニクロなどの小売業については、海外進出してもそれによって国内雇用が減るわけでもないし、増えるはずの雇用が増えないということもありません。
 ただ、製造業が国内の製造工場を人件費の安い海外に移転すれば、やはりそれによって国内雇用は減少することは事実でしょう。ただ、移転できる製造部門には限りがあるでしょうから、どんそん移転が続いて、国内がすっからかんになってしまうというのは、まさに杞憂のような感じもします。
 (2014/2/25)