読書ノート / 通史
 「50年史を読み解く」という企画に無理が 

 大河ドラマと日本人 
編・著者  星亮一・一坂太郎 /著
出版社  イースト・プレス
出版年月 2015/10/20
ページ数 351 
判型  18.8 x 12.8 x 2 cm
税別定価 1500円

 出版社のサイトでは、本書を「NHK大河ドラマ50年史をふたりの歴史作家が読み解く」と紹介しています。
 この紹介文からは、50年間のNHK大河ドラマの歴史を、網羅的に分析したものを想像しますが、実際はかなり異なっています。
 まず、大河ドラマ50年分を実際に見ることができるのかという問題があります。著者の1人の一坂太郎氏は、1966年生まれですから、大河ドラマが始まった1963年には、まだ生まれていません。さらに、『獅子の時代』(1980年)を最後に、大河ドラマはほとんど見ていないそうです。また、もう1人の著者の星亮一氏は、「全部は見たと思うけど、全部は覚えていない」と言うことです。
 次に、「50年史を読み解く」と謳っているにもかかわらず、50本の基本データをまとめて載せていないので、50年史全体が俯瞰できません。詳細なデータは、NHKから出ているNHK大河ドラマ大全 50作品徹底ガイド完全保存版NHK大河ドラマ50作パーフェクトガイドがあるので、そちらを参照してくださいという意味でしょうか。
 なお、NHKでは、『獅子の時代』(1980年)以降の歴代作品は、通常放送回・総集編ともに全ての映像をNHKが保存しており、それ以前の作品も視聴者の録画テープが提供されたりして、全作品の通常放送回が最低1話は現存しているそうです(大河ドラマ - Wikipedia)。それらの、映像はNHK番組公開ライブラリーで見ることができますし、一部は、NHKオンデマンドでも見ることができます。一坂氏は、総集編で(全部かどうかは分かりませんが)過去の作品を確認しているようです。
 本書の構成は次のようになっています。
 まず、著者の2人が、それぞれ一番気に入った作品について語っています。第一章では、星亮一氏が「独眼流正宗」を取り上げ、第三章では、一坂太郎氏が「獅子の時代」を取り上げています。
 次に、初期の3作である「花の生涯」「赤穂浪士」「太閤記」について、一坂太郎氏が、第二章で、かなり詳細に解説しています。これらの作品は、現在ではほとんど残っていませんが、草創期のテレビ業界の舞台裏事情を中心に、面白い読み物となっています。
 第四章では、いわゆる「花燃ゆ疑惑」について、一坂太郎氏が解説しています。一坂氏は、1年間にわたり、洋泉社のサイトに「花燃ゆ」批評を掲載しましたが( はじめに 【大河ドラマ「花燃ゆ」批評】)、本書はその途中に出版されたことになります。
 第十章では、星亮一氏が大河ドラマと絡めて、幕末史観を展開しています。
 第五章から第九章までは、大河ドラマ全体についての対談が続いています。しかし、50年分すべてを取り上げるのは到底無理なので、一部をピックアップしていますが、2人とも見ていない(覚えていない)作品も多く、一般論や推測を交えて互いの歴史観を述べ合って、お茶を濁しています。「50年史を読み解く」という企画に無理があったような気がします。
第一章 ヒーロたちの大河ドラマ――伊達政宗考 星亮一 
第二章 「志」あるドラマ 一坂太郎
第三章 「獅子の時代」と菅原文太 一坂太郎
第四章 「志」を失ってゆくドラマ 一坂太郎 
第五章 映画を超えよ! 一九六〇年代 【対談】 星亮一×一坂太郎
第六章 秀作光る! 一九七〇年代
第七章 黄金時代到来 一九八〇年代
第八章 世紀末への彷徨 一九九〇年代
第九章 初心に帰れ! 二〇〇〇年代 
第十章 幕末維新 星亮一


 大河ドラマ「平清盛」は、平均視聴率12%でした。これは「花燃ゆ」と並んで歴代で最も低い数字です( 図録▽NHK大河ドラマの平均視聴率の推移)。
 平清盛=悪役というイメージが災いしたとも考えられますが、1972年放送の「新・平家物語」は、まずまずの視聴率でした。
 
  Audience Rating TV 〜ドラマ視聴率〜竜馬がゆく(NHK大河ドラマ)-Wikipediaのデータをもとに、過去の大河ドラマの初回視聴率と平均視聴率、その差(下落幅)を調べてみると次のようになりました。赤字は上昇幅を示しています。
タイトル 平均 初回 下落幅
2019 いだてん〜東京オリムピック噺〜 8.17% 15.5% 7.33%
2018 西郷どん 12.72% 15.4% 2.68%
2017 おんな城主 直虎 12.95% 16.9% 3.95%
2016 真田丸 16.65% 19.9% 3.25%
2015 花燃ゆ 12.00% 16.7% 4.7%
2014 軍師官兵衛 15.84% 18.9% 3.06%
2013 八重の桜 14.58% 21.4% 6.72%
2012 平清盛 12.01% 17.3% 5.29%
2011 17.75% 21.7% 3.95%
2010 龍馬伝 18.72% 23.2% 4.48%
2009 天地人 21.18% 24.7% 3.52%
2008 篤姫 24.44% 20.3% 4.41%
2007 風林火山 18.69% 21.0% 2.31%
2006 功名が辻 20.93% 19.8% 1.07%
2005 義経 19.46% 24.2% 4.74%
2004 新選組! 17.41% 26.3% 9.89%
2003 武蔵-MUSASHI- 16.66% 21.7% 5.04%
1968 竜馬がゆく 14.5% 22.9% 8.4%
 初回視聴率の高低は、番組内容よりも前評判の良し悪しが大きく影響します。 Audience Rating TV 〜ドラマ視聴率〜の民放ドラマ視聴率データを見ると、初回視聴率を維持できれば好成績、1%(正確には1ポイントというべきなのでしょうが、ここでは1%としておきます)下落にとどまればまずまず、といったところです。平均視聴率が初回視聴率を上回れば大成功といえます。つまり、視聴率の高低は初回に決まってしまうともいえます。
 大河ドラマの放送回数は民放ドラマの4倍ありますから、4%下落にとどまればまずまずと考えられます。「平清盛」は、5.29%下落ですから(番組内容の評価は意見の分かれるところでしょうが)、視聴者の受けはあまり良くなかったようです(私自身は、大河ドラマはほとんど見ていないので、番組の良し悪しを判断できる立場ではありませんが)。
 ただし、「新選組!」は約10%も下落しています。もっとも、最初の2回の視聴率があまりに高過ぎただけで、全体的には平均的な視聴率を維持しています。逆に「篤姫」は初回の視聴率はそれほど高くはありませんでしたが、回を追うごとに視聴率が上がるという珍しい成功例です。  
 これまで、歴代の大河ドラマの平均視聴率は、徐々に低下しながらも、一気に回復しさらにその後、徐々に低下するというパターンを繰り返していますが( 図録▽NHK大河ドラマの平均視聴率の推移)、最近では20%を超えることは難しくなっています。
 とはいうものの、視聴率12%でも、1200万人が見ているとしたら巨大な人数です。そのうち1割でも、清盛に関する歴史書を買ってくれれば、かなりの売上が期待できます。大河ドラマで取り上げてくれれば、その関連書籍を出している出版社にとって、大きなビジネスチャンスとなると言えそうです。
 大河ドラマな視聴率が低下傾向にあるといわれています。特に最近は、「平清盛」「花燃ゆ」が平均視聴率12%で、最低記録を更新しています(図録▽NHK大河ドラマの平均視聴率の推移)。
 「花燃ゆ」は「疑惑」がマイナスに作用したものと思われます。平清盛=悪役というイメージが災いしたとも考えられますが、1972年放送の「新・平家物語」は、まずまずの視聴率でした。

 Audience Rating TV 〜ドラマ視聴率〜竜馬がゆく(NHK大河ドラマ)-Wikipediaのデータをもとに、過去の大河ドラマの初回視聴率と平均視聴率、その差(下落幅、赤字は上昇幅)を調べてみると次のようになりました。
タイトル 平均 初回 下落幅
2017 おんな城主 直虎 12.95% 16.9% 3.95%
2016 真田丸 16.65% 19.9% 3.25%
2015 花燃ゆ 12.00% 16.7% 4.7%
2014 軍師官兵衛 15.84% 18.9% 3.06%
2013 八重の桜 14.58% 21.4% 6.72%
2012 平清盛 12.01% 17.3% 5.29%
2011 17.75% 21.7% 3.95%
2010 龍馬伝 18.72% 23.2% 4.48%
2009 天地人 21.18% 24.7% 3.52%
2008 篤姫 24.44% 20.3% 4.41%
2007 風林火山 18.69% 21.0% 2.31%
2006 功名が辻 20.93% 19.8% 1.07%
2005 義経 19.46% 24.2% 4.74%
2004 新選組! 17.41% 26.3% 9.89%
2003 武蔵-MUSASHI- 16.66% 21.7% 5.04%
1968 竜馬がゆく 14.5% 22.9% 8.4%
 初回視聴率の高低は、番組内容よりも前評判の良し悪しが大きく影響します。 Audience Rating TV 〜ドラマ視聴率〜の民放ドラマ視聴率データを見ると、初回視聴率を維持できれば好成績、1%(正確には1ポイントというべきなのでしょうが、ここでは1%としておきます)下落にとどまればまずまず、といったところです。平均視聴率が初回視聴率を上回れば大成功といえます。つまり、視聴率の高低は初回に決まってしまうともいえます。
 大河ドラマの放送回数は民放ドラマの4倍ありますから、4%下落にとどまればまずまずと考えられます。「平清盛」は、5.29%下落ですから(番組内容の評価は意見の分かれるところでしょうが)、視聴者の受けはあまり良くなかったようです。「八重の桜」は、それよりもさらに大きく、6.72%下落しているのに対し、「花燃ゆ」は、4.7%下落と意外に健闘しています。
 一方、「新選組!」は約10%も下落しています。もっとも、最初の2回の視聴率があまりに高過ぎただけで、全体的には平均的な視聴率を維持しています。逆に「篤姫」は初回の視聴率はそれほど高くはありませんでしたが、回を追うごとに視聴率が上がるという珍しい成功例です。  
 これまで、歴代の大河ドラマの平均視聴率は、徐々に低下しながらも、一気に回復しさらにその後、徐々に低下するというパターンを繰り返していますが(図録▽NHK大河ドラマの平均視聴率の推移)、最近では20%を超えることは難しくなっています。
 ただし、次のように、総世帯視聴率(Households Using Television、テレビをつけている世帯)は、長期的に低下傾向にあります( 主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる(最新))。つまり、パイ全体が小さくなっていますから、NHKの取り分も小さくなっているといえます。さらに、この数年、裏番組の「イッテQ」が、20%を超える高視聴率をたたき出しているため(日テレ『イッテQ』はなぜここまで強いのか? その緻密な戦略と計算 )、大河ドラマがそれに食われる形になっています。現状では、大河ドラマが平均視聴率20%を超えるのは極めて困難な状況となっています。

 もっとも、大河ドラマは、地上派よりも2時間早く、BSプレミアムで午後6時から放送しています(大河ドラマ『真田丸』が自己ワースト視聴率更新も、NHKが慌てないワケ)。BSプレミアムの視聴率が3〜4%だとして、地上派の平均視聴率にそれを加算すると、「真田丸」や「軍師官兵衛」の総合視聴率は20%近くになります。これは、10年前と比べて、遜色のない数字です。
 テレビ離れが進む中で、大河ドラマは、意外と健闘していると言えなくもありません。  
2017/12/15