読書ノート / 医療
 医療政策研究者からのTPP反対論

 TPPと医療の産業化  amazon
編・著者  二木立/著
出版社  勁草書房
出版年月  2012年5月7日
ページ数  222 
判型  22 x 15.5 x 1.8 cm
税込定価  2625円 
 著者は、臨床医(リハビリテーション専門医)出身の医療経済学・医療政策の研究者です。1985年日本福祉大学教授となり、現在は副学長で、次期学長(2013年4月から)に選ばれました。なお、中日ドラゴンズの浅尾拓也投手は同大学の福祉経営学部(現経済学部)卒業生です。
 日本医事新報や文化連情報といった医療専門誌に発表した論文を1冊にまとめたのがこの本です。ただし、医学の学術論文ではないので、一般読者でもなんとか理解できる内容です。ただ、内容がダブっている部分もあって、いささか混乱してしまうのも事実です。
 この本は、タイトルにもあるように、TPPへの参加と医療の産業化政策という、民主党政権の医療政策を批判的に検討することを目的としています(本書はしがき)。民主党政権が崩壊した今となっては、批判の意味合いは薄れてしまいましたが、TPP参加と医療の産業化という問題は自民党政権下でも継続するものですから、その当否を検証するという点では、この本の意味はなお失われていないといえるでしょう。
 日本がTPPに参加した場合、著者は、アメリカからの要求として、次の3つのシナリオが考えられるとしています。 
  @医療機器・医薬品価格への規制の撤廃・緩和
  A医療特区(総合特区)に限定した株式会社の病院経営と混合診療の解禁 
  B全国レベルでの株式会社の病院経営と混合診療の解禁
 そして、@の要求は実現する可能性は高いし、Aの実現可能性も長期的には否定できないが、Bの実現可能性はごく低いと判断しています。
 Bの実現可能性はごく低いとする根拠は、Bの要求を実現するためには、医療法と健康保険法の同時・抜本改正が必要であり、それはほとんど不可能だからだというものです。したがって、TPPへ参加すれば、アメリカの株式会社制病院チェーンが日本の医療市場を支配するという「地獄のシナリオ」が起こる可能性は低いとしています。もっとも、このような「楽観論」を唱える真意は、「今そこにある危機」(@あるはA)に焦点を当てることにより、TPP参加反対の輪を拡げることにあるとしています。
 さらに、Bの実現可能性が低いことの理由として、「あの強大な小泉政権」でさえ、混合診療全面解禁を含む、医療本体への市場原理導入の全面実施に挫折したことをあげています。ただ、今後、国民皆保険すら解体される危険性は皆無ではないと、次のように述べています。
 もちろん,今後国家財政破綻が生じ,それを契機として強権的・新自由主義的政権が誕生した場合は状況が激変し,混合診療全面解禁はおろか国民皆保険すら解体される可能性があります.私は,現在の日本の経済的・政治的混迷と,2011年12月の大阪府知事・市長選挙での橋下徹氏等の圧勝に象徴される英雄待望論的な風潮を考えると,この危険を軽視すべきではないと考えています(というより,強い危機感を持っています).ちなみに,2011年11月に出版された『もし小泉進次郎がフリードマンの「資本主義と自由」を読んだら』は,そのような政権が2015年に実現することを想定して,起こりうる事態をかなりリアルに描いています.しかし,このような可能性と,現在の条件の下でTPP参加により起こりうる事態とを混同すべきではありません. 
 著者によると、この『もし小泉進次郎がフリードマンの「資本主義と自由」を読んだら』の原作者の池田信夫氏は「筋金入りのリバタリアン(絶対自由主義者)・小さな政府の信奉者で、有名なブロガー」だそうです。
 いずれにしても、安部政権の登場によって、このような危険はより現実的となっているのかもしれません。
 なお、混合診療禁止の是非をめぐって争われた訴訟の最高裁判決もTPPに対する防波堤になるとしています(⇒混合診療の禁止は適法、最高裁が初の判断)。
  (2012/12/25)