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 デジタル犯罪関連条文
 2020/7/18
電磁的記録不正作出及び供用罪
第161条の2
第1項 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第2項  前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。 
第3項 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。 
第4項 前項の罪の未遂は、罰する。
 「電磁的記録」とは、「記録媒体に情報が保存された状態をいう」(山口厚著「刑法第2版」有斐閣415ページ)ということですから、パソコンで作ったデータを記録用ハードディスクに保存したときに「電磁的記録を不正に作った」ことになり、既遂になります。文書偽造における「文書」にあたるものは「データの保存されたハードディスク」ということになるのでしょうか。ただ、ハードディスクは入れ物に過ぎないので、「物」の偽造でなく、「情報」の作出が処罰の対象となります。
 具体的に「電磁的記録」にあたるものは、銀行の預金残高記録、自動改札定期券の残高記録などです。プリペイカードの残高記録、キャッシュカードの磁気ストライブ部分の記録などは、「支払用カード電磁的記録不正作出等罪」が新設され、そちらで捕捉されることになりました。

支払用カード電磁的記録に関する罪
第163条の2(支払用カード電磁的記録不正作出等)
第1項 人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。
第2項  不正に作られた前項の電磁的記録を、同項の目的で、人の財産上の事務処理の用に供した者も、同項と同様とする。 
第3項  不正に作られた第1項の電磁的記録をその構成部分とするカードを、同項の目的で、譲り渡し、貸し渡し、又は輸入した者も、同項と同様とする。 
第163条の3(不正電磁的記録カード所持)
前条第1項の目的で、同条第3項のカードを所持した者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第163条の4(支払用カード電磁的記録不正作出準備)
第1項 第163条の2第1項の犯罪行為の用に供する目的で、同項の電磁的記録の情報を取得した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。情を知って、その情報を提供した者も、同様とする。 
第2項 不正に取得された第163条の2第1項の電磁的記録の情報を、前項の目的で保管した者も、同項と同様とする。 
第3項 第1項の目的で、器械又は原料を準備した者も、同項と同様とする。 
第163条の5(未遂罪)
第163条の2及び前条第1項の罪の未遂は、罰する。  
 一般的には、クレジットカードやキャッシュカードやプリペイカードの「偽造」を処罰する規定ととられるかも知れませんが、処罰の対象となるのはあくまでも「電磁的記録の不正作出」です。したがって、外見からは偽造されたとは言えない「ホワイトカード」を作るのもこの規定で処罰されます。「ホワイトカード」でもATMで使用可能なので、その偽造は処罰の対象とする必要があります。
 「電磁的記録の不正作出」そのものは、電磁的記録不正作出及び供用罪(161条の2)で処罰可能ですが、度数を書き換えた不正テレホンカードの販売を処罰できないため(不正作出罪は物を処罰の対象としていない)、支払用カード電磁的記録に関する罪を新設し、「電磁的記録の不正作出」の罰則を強化するとともに、カードの販売の処罰を規定し、さらにカードの所持やスキミングなどの準備行為も処罰の対象としました。

ウイルス作成罪(不正指令電磁的記録に関する罪)
第168条の2(不正指令電磁的記録作成等)
第1項 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
一  人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二  前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
第2項 正当な理由がないのに、前項第1号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。 
第3項 前項の罪の未遂は、罰する。
第168条の3(不正指令電磁的記録取得等)
正当な理由がないのに、前条第1項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。 
 コンピュータウイルスの作成や提供、供用、取得、保管をしたりすることで成立します。2011年の刑法改正により新たに設けられました。
 コンピュータウイルスにより、公的機関や法人のサイトやシステムに損害を与えれば、これまでも電子計算機損壊等業務妨害罪が成立していました。本罪の制定により、個人のPCに損害を与えた場合も、処罰が容易となりました。
 さらに、損害が発生していなくても、コンピュータウイルスの作成という準備行為も処罰されます。また、「正当な理由」「実行の用に供する目的」「意図に反する動作」の解釈の仕方によって、処罰範囲が広がりすぎることを懸念する声もあります(ウイルス罪の解釈と運用はどこが「おかしくなっている」のか)。

わいせつ物頒布等罪
第175
第1項  わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
第2項  有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
 2011年の刑法改正により、わいせつ動画のアップロードも処罰の対象となることを明確にしました。なお、海外のサーバーにアップロードする場合も、日本から送信すれば処罰の対象となります。
わいせつ動画、米国サーバでもアウト! その理由は?無修正動画サイト「カリビアンコム」関係者が逮捕。海外運営なのになぜ摘発できたのか? )
 
電子計算機損壊等業務妨害罪
第234条の2
第1項  人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
第2項  前項の罪の未遂は、罰する。
 コンピュータをターゲットにした業務妨害行為を、偽計業務妨害罪(233条)および威力業務妨害罪(234条)よりも重く処罰する規定です。偽計とは、「人を欺罔し、あるいは人の錯誤又は不知を利用すること」をいい、「威力とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力」をいいます(山口厚著「刑法第2版」有斐閣274ページ)。したがって、コンピュータウィルスによってサーバーをダウンさせたり、誤作動させた場合、偽計にあたるかは微妙です。器物損壊等罪(261条)は成立するでしょうが、法定刑は、「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」に過ぎません。
 そこで、処罰の対象となる行為を明確にし、法定刑を加重したのがこの規定です。放送局のホームページの天気予報画像をわいせつ画像に書き換えた場合に、この規定が適用されています。

電子計算機使用詐欺罪
第246条の2
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。 
 詐欺罪(246条)の補充規定で、詐欺罪が成立するときは本罪の適用はない(山口厚著「刑法第2版」有斐閣323ページ)ということです。
 詐欺罪は「人を欺いて財物を交付」させた場合に成立しますが、コンピュータを操作して不正の利益を得た場合、「人を欺いた」といえないので、詐欺罪は成立しない不都合を解消するための規定ということでしょうか。
 「他人のCDカードを利用して現金を引出す行為は窃盗罪とされたが、振込みに使う場合は処罰する規定がなかったので、新設された」(電子計算機使用詐欺/コンピュータ犯罪に関する刑法改正)ということですが、裁判例は企業内犯罪に関するものが目立ち、キャッシュカードやクレジットカードのどのような不正使用により本罪が成立するのか、必ずしも明確ではありませんでした。
 たとえば、盗んだクレジットカードをネットショッピングの決済に使った場合、「不実の電磁的記録を作った」といえるのか、あるいは「虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供した」といえるのか判断に苦しみます。盗んだクレジットカードで買い物をすれば詐欺罪が成立することに疑問はないのですから、機械を相手に同様のことを行えば、電子計算機使用詐欺罪が成立するはずですが、条文からはストレートにそのような結論が導き出せないからです。
 この点について、最高裁は電子計算機使用詐欺罪が成立するとの判断を下しました(電子計算機使用詐欺/コンピュータ犯罪に関する刑法改正)。
 弁護人が「クレジットカードの情報は虚偽の情報ではないから、不実の電磁的記録を作ったことにならない」と主張したのに対し、「本件クレジットカードの名義人による電子マネーの購入の申込みがないにもかかわらず,本件電子計算機に同カードに係る番号等を入力送信して名義人本人が電子マネーの購入を申し込んだとする虚偽の情報を与え,名義人本人がこれを購入したとする財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り,電子マネーの利用権を取得して財産上不法の利益を得たものというべきである」としました。

公用文書等毀棄罪・私用文書等毀棄罪・器物損壊等罪
第258条(公用文書等毀棄罪)
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
第259条(私用文書等毀棄罪)
権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。
第261条(器物損壊等罪)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。 
 文書毀棄罪については、文書も電磁的記録も同じ規定で処罰されます。文書も電磁的記録も、情報が固定された媒体(紙・ハードディスク)であり、情報が媒体の価値を高めているといえます。そして、毀棄の方法としては、媒体全体の損壊のほか、情報の破壊も含まれる点で、両者に違いはないともいえます。もっとも、電磁的記録の場合は、情報の破壊には特殊な機械操作が必要となります。しかし、情報の破壊により、効用を害するという行為には本質的違いはないといえるでしょう。
 一方、器物損壊等罪では、電磁的記録は特に規定されていませんが、電磁的記録が固定された媒体も保護の対象となり、その電磁的記録を破壊すれば効用を害し、損壊罪が成立します。つまり、コンピュータウィルスにより、ハードディスクのデータを破壊すれば、物理的に損傷を与えなくても、損壊罪が成立します。
 「タコイカウイルス」事件では、PC内のファイルをすべてタコやイカの画像に置き換えるなどして、パソコンを使用不能にしたとして、作成者は器物損壊罪で実刑判決を受けています(「タコイカウイルス」作者に実刑判決 )。