具体的に「電磁的記録」にあたるものは、銀行の預金残高記録、自動改札定期券の残高記録などです。プリペイカードの残高記録、キャッシュカードの磁気ストライブ部分の記録などは、「支払用カード電磁的記録不正作出等罪」が新設され、そちらで捕捉されることになりました。 支払用カード電磁的記録に関する罪
「電磁的記録の不正作出」そのものは、電磁的記録不正作出及び供用罪(161条の2)で処罰可能ですが、度数を書き換えた不正テレホンカードの販売を処罰できないため(不正作出罪は物を処罰の対象としていない)、支払用カード電磁的記録に関する罪を新設し、「電磁的記録の不正作出」の罰則を強化するとともに、カードの販売の処罰を規定し、さらにカードの所持やスキミングなどの準備行為も処罰の対象としました。 ウイルス作成罪(不正指令電磁的記録に関する罪)
コンピュータウイルスにより、公的機関や法人のサイトやシステムに損害を与えれば、これまでも電子計算機損壊等業務妨害罪が成立していました。本罪の制定により、個人のPCに損害を与えた場合も、処罰が容易となりました。 さらに、損害が発生していなくても、コンピュータウイルスの作成という準備行為も処罰されます。また、「正当な理由」「実行の用に供する目的」「意図に反する動作」の解釈の仕方によって、処罰範囲が広がりすぎることを懸念する声もあります(ウイルス罪の解釈と運用はどこが「おかしくなっている」のか)。 わいせつ物頒布等罪
(わいせつ動画、米国サーバでもアウト! その理由は?、無修正動画サイト「カリビアンコム」関係者が逮捕。海外運営なのになぜ摘発できたのか? ) 電子計算機損壊等業務妨害罪
そこで、処罰の対象となる行為を明確にし、法定刑を加重したのがこの規定です。放送局のホームページの天気予報画像をわいせつ画像に書き換えた場合に、この規定が適用されています。 電子計算機使用詐欺罪
詐欺罪は「人を欺いて財物を交付」させた場合に成立しますが、コンピュータを操作して不正の利益を得た場合、「人を欺いた」といえないので、詐欺罪は成立しない不都合を解消するための規定ということでしょうか。 「他人のCDカードを利用して現金を引出す行為は窃盗罪とされたが、振込みに使う場合は処罰する規定がなかったので、新設された」(電子計算機使用詐欺/コンピュータ犯罪に関する刑法改正)ということですが、裁判例は企業内犯罪に関するものが目立ち、キャッシュカードやクレジットカードのどのような不正使用により本罪が成立するのか、必ずしも明確ではありませんでした。 たとえば、盗んだクレジットカードをネットショッピングの決済に使った場合、「不実の電磁的記録を作った」といえるのか、あるいは「虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供した」といえるのか判断に苦しみます。盗んだクレジットカードで買い物をすれば詐欺罪が成立することに疑問はないのですから、機械を相手に同様のことを行えば、電子計算機使用詐欺罪が成立するはずですが、条文からはストレートにそのような結論が導き出せないからです。 この点について、最高裁は電子計算機使用詐欺罪が成立するとの判断を下しました(電子計算機使用詐欺/コンピュータ犯罪に関する刑法改正)。 弁護人が「クレジットカードの情報は虚偽の情報ではないから、不実の電磁的記録を作ったことにならない」と主張したのに対し、「本件クレジットカードの名義人による電子マネーの購入の申込みがないにもかかわらず,本件電子計算機に同カードに係る番号等を入力送信して名義人本人が電子マネーの購入を申し込んだとする虚偽の情報を与え,名義人本人がこれを購入したとする財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り,電子マネーの利用権を取得して財産上不法の利益を得たものというべきである」としました。 公用文書等毀棄罪・私用文書等毀棄罪・器物損壊等罪
一方、器物損壊等罪では、電磁的記録は特に規定されていませんが、電磁的記録が固定された媒体も保護の対象となり、その電磁的記録を破壊すれば効用を害し、損壊罪が成立します。つまり、コンピュータウィルスにより、ハードディスクのデータを破壊すれば、物理的に損傷を与えなくても、損壊罪が成立します。 「タコイカウイルス」事件では、PC内のファイルをすべてタコやイカの画像に置き換えるなどして、パソコンを使用不能にしたとして、作成者は器物損壊罪で実刑判決を受けています(「タコイカウイルス」作者に実刑判決 )。 |