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 Windowsは著作物なのか
 2016/10/9(2020/7/18改定)
●著作権法は著作物と認めている 
 著作権法10条1項9号 は、「著作物の例示」として、「プログラムの著作物」を挙げていますから、プログラムを著作物と認めているのは明らかです。
第10条  この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
 一〜八 (省略)
   プログラムの著作物
 そして、著作権法2条1項10号の2は、プログラムを「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と定義していますから、Windowsがこの「プログラム」に当たることも明らかです。
第2条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一〜十 (省略)
十の二  プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。
 プログラムが著作物と認めているようになったのは1986年の改正によってであり、次のように、「スペースインベーダー」の海賊版問題がそのきっかけとなったそうです( 第二章 権利ビジネスの崩壊 - なぜプログラムは著作物なのか)。 
 日本でコンピュータプログラムが著作権で保護されるようになったのは、1986年の著作権法の改正であった。それまでは、コンピュータプログラムには法的な権利が認められず、複製はし放題だつたのだ。それがタイトー社の「スペースインベーダー」の海賊版が猛威をふるったことで、裁判沙汰になった。1983年の横浜地裁の判決で「スペースインベーダー」の複製権が認められたことで、一気に議論が高まり、著作権の保護が行なわれた。
 しかし、従来の著作物概念からは異質ともいえるプログラムを、著作物として無制限に保護することについては、次のように疑問の声もあります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」52ページ)。
 プログラムは,コンピュータを稼動させる手段として技術的,機能的な性格か強く,小説等の典型的な著作物とは性格を大きく異にするものてあるため,かつては,プログラムは著作権法てはなく,プログラムの特性を考慮した新規立法により保護すべきてあるとの主張もなされたが,最終的には,諸外国の動向にも配慮し,プログラムは著作権法により保護されることとなった。もっとも,現行法の下ても,プログラムを著作物として保護することによって,プログラム産業の発展かかえって阻害されることのないように,プログラムの著作物性の判断においては,その技術的,機能的特性を十分に考慮する必要かあるといえよう。

●そもそも著作物とは何か 
 ところで、そもそも著作物とは何でしょうか。
 この点について、著作権法2条1項1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています。
第2条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 そして、この定義から、@「思想または感情」、A「表現」、B「創作性」、C「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」、という4つの具体的要件が導き出されます(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」16ページ)。
 プログラムが、これらの要件を充たすことは難しそうですが、実際はこれらの要件は、(特に@とBで)著しく緩和されているので、問題なくクリアできます。要件の実際の運用と、(特に@とBで)著作物性が否定される例外事例をまとめると次のようになります。
具体的要件  実際の運用  例外事例 
@思想または感情 何らかの考えや気持ちが表れていればよい  ・自然物
・客観的事実 
A表現  ・外部的な認識可能性
・個別具体的に表現
 ⇒アイデアは保護されない(アイデア表現二分論)
 
B創作性  何らかの個性が表現されていればよい  ・既存の著作物の模倣
・不可避的な表現
・ごくありふれた表現 
C文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの  広い意味で文化的所産と言えればよい。産業的所産は特許法や意匠法で保護される   

●特許法で保護される場合もある  
 著作権法はアイデアを保護していませんが、特許法では「発明」というアイデアを保護しています。また、当該プログラムが文化的所産といえなくても、産業的所産として特許法で保護される可能性はあります。つまり、プログラムは著作権法で保護される場合と、特許法で保護される場合があることになります。そして、両者の関係は次のようになります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」52〜53ページ)。なお、マイクロソフトはアンドロイドスマートフォンメーカーから毎年20億ドルの特許料を得ているそうです(AndroidでMicrosoftが毎年なんと約1970億円も儲けている理由とは? - GIGAZINE)。
プログラムの創作過程では,プログラムを表現する過程よりも,解法等を考案することにより高度な創作性を要する場合も多いが,解法等は,さまざまなプログラムの創作に応用可能な汎用性の高い成果であり,著作権により長期間の独占を認めることは産業上の弊害が大きいことから,著作権法で保護すべきではないと解されている。解法等に新規性,進歩性があれば,別途,特許権により保護されうる(特許2条3項参照)。特許法と著作権法はいずれもプログラムを保護対象とするが,特許法はプログラムの技術的思想面を保護するのに対し(特許2条1項参照),著作権法はプログラムの具体的表現部分を保護するという点において異なっていることに注意する必要がある。

●著作権という権利があるわけではない 
 著作者の権利としては、著作者人格権と著作権があります。Windowsについては、一般ユーザーにとって、著作者人格権が問題となることは、あまり考えられないので、ここでは著作権について検討します。
 著作権とは、次の説明のように支分権の束であり、著作権という権利があるわけではありません(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」128ページ)。
 著作権は,複製権や上演権といった各種の支分権の束であり,「著作権」という用語は,著作権法が著作権者に与えた経済的諸権利の総称である。各支分権はいずれも,@依拠性,A類似性,B法定利用行為,という3要件を充足してはじめて侵害が成立する。このうち,@とAは全支分権に共通する侵害成立要件であるが,Bの内容は支分権ごとに異なる。
 法定利用行為と支分権の関係は次のようになります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」129ページ)。@〜Dが法定利用行為で、右側の一群が各種の支分権です。

 Windows について問題となるのは、「有形的再製=複製」と「提供=譲渡」です。Windows はコピーの適否が問題となるので、@依拠性とA類似性の要件は当然に充たされます。

●中古Windows の転売は自由 
 著作権法26条の2は、著作物の譲渡について次のように定めています。
第26条の2  著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
 前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物
 1項によると、Windows のDVDを譲渡できるのは、著作者であるマイクロソフトのみということになります。しかし、2項本文は「前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない」となっていて、1号は「前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物」となっています。
 要するに、「前項に規定する権利を有する者=著作権者」が譲渡した場合は、「前項=譲渡権の専有」は適用しない、ということです。
 つまり、マイクロソフトが Windows のDVDを売ってしまえば、その後の売買に注文をつけることはできないということです。ただし、譲渡しているのは著作物、つまり、WindowsのDVDの所有権であり、著作権そのものはマイクロソフトが保有していますから、勝手にコピーして転売すれば著作権の侵害となります。

●インストールのための複製は自由にできる
 Windowsをインストールするということは、インストール用DVDのデータをパソコンのHDDやSSDドライブにコピーするということです。これは複製権の侵害となるのでしょうか。
 これについては、著作権法47条の3 に、「インストールのために複製できる」という趣旨の規定があります。
 (プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
第47条の3 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第113条第2項の規定が適用される場合は、この限りでない。
 前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。
 「プログラムの著作物の複製物」というのは、たとえばWindowsのインストール用DVDを指すと思われます。「利用するために必要と認められる限度で複製できる」ということは、Windowsを使うため、HDD等にインストール(複製)できるということです。
 「滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後」というのは、たとえばWindowsを譲渡した場合は、「その他の複製物を保存してはならない」つまり「インストールしたWindowsを削除しなければならない」ということだと思われます。
 「第113条第2項の規定 」は次の規定です。
 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(当該複製物の所有者によつて第47条の3第1項の規定により作成された複製物並びに前項第1号の輸入に係るプログラムの著作物の複製物及び当該複製物の所有者によつて同条第1項の規定により作成された複製物を含む。)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。
 これは、「著作権を侵害する行為によつて作成された複製物」、たとえば海賊版Windowsを使用することは「著作権侵害とみなす」ということです。ただし、「権原を取得した時に情を知つていた場合に限り」ということですから、買ったときに海賊版と知らなければ、その後気がついてそのまま使っても著作権侵害にはならないということです。
 「業務上」とはどのような場合かについては、次のような考え方があります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」260〜261ページ)。つまり、個人が私的な文書作成のためにこれを使用する場合は、海賊版を使っても処罰させることはないということになります。ただし、海賊版のWindowsでは、認証が通らないので、事実上使うことができなくなります。
 プログラムの「使用」行為というのはそもそも著作権の支分権に含まれないため,本来は侵害となりえないのであるが,プログラムというものの経済的価値に鑑みて,違法作成プログラムであることを知りながら業務上使用する行為は著作権侵害行為とみなしているのである。
 したがって,例えば違法複製物と知りなから取得したソフトウェアを業務上使用することは,たとえ複製等の利用行為がなくても侵害とみなされる。
 もっとも,「業務上」とされていることから,営利・非営利は問わないとしても,社会上の地位に基づいて継続して行われる事務・事業であることが必要となる。したがって,違法に複製されたワープロソフトを使用する場合であっても,個人が私的な文書作成のためにこれを使用する場合は本項の適用を受けない。

●東京リーガルマインド事件は複製権侵害なのか 
 プログラムについての著名な裁判例としては、東京リーガルマインド事件があります。この事件については、原告側弁護士による報告書「文部科学省>裁判例における侵害量の認定状況について」が公開されています
 原告は、アドビ、マイクロソフト、アップルの3社で、被告は、東京リーガルマインドです。証拠保全による検証手続の結果、東京リーガルマインド高田馬場西校校舎の136台のコンピューターに、545本のビジネスソフトを許諾された台数以上に不正にインストールしていることが確認されました。そのほか、時間的制約で検証できなかった83台についても同様の不正があったと推定されました。その結果、アドビに5088万6900円、マイクロソフトに1237万円、アップルに1376万1600円の損害(ソフトの小売価格分の総額)があったと認めて、その賠償を命じたというものです。
 原告は、「不正使用の場合の損害額は小売価格の倍になる」「全国31の校舎及び事務所でも同様の不正があったと推測される」と主張し、一方、被告は、「問題発覚後に正規のソフトを購入したから損害はない」と主張しましたが、いずれも退けられました。
 「BSAのホットラインに,株式会社東京リーガルマインド(LEC)に関する不正コピー情報が入る」というのが事件の発端だったそうです。BSAとは、「グローバル市場において世界のソフトウェア産業を牽引する業界団体」(BSAについて)だそうですが、組織内不正コピー「情報提供窓口」を設け、情報提供(内部告発)を呼びかけています(BSA:不正コピー/違法コピーソフトウェア「情報提供窓口」)。情報提供者に対し最高300万円の報奨金を出しているそうです(BSA、企業内違法コピーの情報提供者に対し最高300万円の報奨金)。
 なお、この訴訟については、「BSA側は実質的に敗訴した」という見方もあります(LEC事件について)。   
 ところで、原告は被告が違法複製=著作権侵害を行ったとし、被告もそのことは争っていないようです。しかし、インストールが「複製」ではなく、「使用」とするならば、違法複製=著作権侵害とはならないようにも思えます。
 つまり、許諾された台数以上のパソコンにインストールするというのは、著作権法違反ではなく、ライセンス契約違反に過ぎないのではないかということです。違法複製=著作権侵害ならば、刑事事件として告訴もできそうですが、インターネットで調べた限りでは、そのような例は見当たりませんが、どうなのでしょうか。