著作権法10条1項9号 は、「著作物の例示」として、「プログラムの著作物」を挙げていますから、プログラムを著作物と認めているのは明らかです。
●そもそも著作物とは何か ところで、そもそも著作物とは何でしょうか。 この点について、著作権法2条1項1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています。
プログラムが、これらの要件を充たすことは難しそうですが、実際はこれらの要件は、(特に@とBで)著しく緩和されているので、問題なくクリアできます。要件の実際の運用と、(特に@とBで)著作物性が否定される例外事例をまとめると次のようになります。
●特許法で保護される場合もある 著作権法はアイデアを保護していませんが、特許法では「発明」というアイデアを保護しています。また、当該プログラムが文化的所産といえなくても、産業的所産として特許法で保護される可能性はあります。つまり、プログラムは著作権法で保護される場合と、特許法で保護される場合があることになります。そして、両者の関係は次のようになります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」52〜53ページ)。なお、マイクロソフトはアンドロイドスマートフォンメーカーから毎年20億ドルの特許料を得ているそうです(AndroidでMicrosoftが毎年なんと約1970億円も儲けている理由とは? - GIGAZINE)。
●著作権という権利があるわけではない 著作者の権利としては、著作者人格権と著作権があります。Windowsについては、一般ユーザーにとって、著作者人格権が問題となることは、あまり考えられないので、ここでは著作権について検討します。 著作権とは、次の説明のように支分権の束であり、著作権という権利があるわけではありません(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」128ページ)。
Windows について問題となるのは、「有形的再製=複製」と「提供=譲渡」です。Windows はコピーの適否が問題となるので、@依拠性とA類似性の要件は当然に充たされます。 ●中古Windows の転売は自由 著作権法26条の2は、著作物の譲渡について次のように定めています。 要するに、「前項に規定する権利を有する者=著作権者」が譲渡した場合は、「前項=譲渡権の専有」は適用しない、ということです。 つまり、マイクロソフトが Windows のDVDを売ってしまえば、その後の売買に注文をつけることはできないということです。ただし、譲渡しているのは著作物、つまり、WindowsのDVDの所有権であり、著作権そのものはマイクロソフトが保有していますから、勝手にコピーして転売すれば著作権の侵害となります。 ●インストールのための複製は自由にできる Windowsをインストールするということは、インストール用DVDのデータをパソコンのHDDやSSDドライブにコピーするということです。これは複製権の侵害となるのでしょうか。 これについては、著作権法47条の3 に、「インストールのために複製できる」という趣旨の規定があります。
「滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後」というのは、たとえばWindowsを譲渡した場合は、「その他の複製物を保存してはならない」つまり「インストールしたWindowsを削除しなければならない」ということだと思われます。 「第113条第2項の規定 」は次の規定です。
「業務上」とはどのような場合かについては、次のような考え方があります(島並良・上野達弘・横山久芳「著作権法入門」260〜261ページ)。つまり、個人が私的な文書作成のためにこれを使用する場合は、海賊版を使っても処罰させることはないということになります。ただし、海賊版のWindowsでは、認証が通らないので、事実上使うことができなくなります。
●東京リーガルマインド事件は複製権侵害なのか プログラムについての著名な裁判例としては、東京リーガルマインド事件があります。この事件については、原告側弁護士による報告書「文部科学省>裁判例における侵害量の認定状況について」が公開されています 原告は、アドビ、マイクロソフト、アップルの3社で、被告は、東京リーガルマインドです。証拠保全による検証手続の結果、東京リーガルマインド高田馬場西校校舎の136台のコンピューターに、545本のビジネスソフトを許諾された台数以上に不正にインストールしていることが確認されました。そのほか、時間的制約で検証できなかった83台についても同様の不正があったと推定されました。その結果、アドビに5088万6900円、マイクロソフトに1237万円、アップルに1376万1600円の損害(ソフトの小売価格分の総額)があったと認めて、その賠償を命じたというものです。 原告は、「不正使用の場合の損害額は小売価格の倍になる」「全国31の校舎及び事務所でも同様の不正があったと推測される」と主張し、一方、被告は、「問題発覚後に正規のソフトを購入したから損害はない」と主張しましたが、いずれも退けられました。 「BSAのホットラインに,株式会社東京リーガルマインド(LEC)に関する不正コピー情報が入る」というのが事件の発端だったそうです。BSAとは、「グローバル市場において世界のソフトウェア産業を牽引する業界団体」(BSAについて)だそうですが、組織内不正コピー「情報提供窓口」を設け、情報提供(内部告発)を呼びかけています(BSA:不正コピー/違法コピーソフトウェア「情報提供窓口」)。情報提供者に対し最高300万円の報奨金を出しているそうです(BSA、企業内違法コピーの情報提供者に対し最高300万円の報奨金)。 なお、この訴訟については、「BSA側は実質的に敗訴した」という見方もあります(LEC事件について)。 ところで、原告は被告が違法複製=著作権侵害を行ったとし、被告もそのことは争っていないようです。しかし、インストールが「複製」ではなく、「使用」とするならば、違法複製=著作権侵害とはならないようにも思えます。 つまり、許諾された台数以上のパソコンにインストールするというのは、著作権法違反ではなく、ライセンス契約違反に過ぎないのではないかということです。違法複製=著作権侵害ならば、刑事事件として告訴もできそうですが、インターネットで調べた限りでは、そのような例は見当たりませんが、どうなのでしょうか。 |