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 コピーワンスの回避や解除は違法か
 2020/7/22
 地上波テレビ放送がデジタル化されて以来、コピーワンスやダビング10により、録画データのコピーは「規制」されるようになりました。しかし、PLEXなどのパソコン用テレビチューナーを使えば、このような「規制」は、回避できます。また、リッピングソフトを使えば、解除できます。結論から言えば、「回避」は違法ではない、「解除」は違法と解する余地はあるものの罰則はない、と私は考えます。

まさに、ガチガチの縛り
 次のように、当初はコピーワンスという「規制」でしたが、2008年7月からは、より緩和された内容のダビング10も追加されています(よくわかるダビング10| BUFFALO バッファロー)。なお、コピーは元データが残りますが、ムーブ(移動)では、元データは残りません。また、ハードディスクからハードディスクへのコピーや移動はできません。

 IODATAのPC用TVチューナー「GV-MVP/AZ」には、次のような説明があります。
・BDへのダビング/ムーブの機能は「AACSキー」の有効期限の終了後はお使いいただくことができなくなります。
・本商品は、地上デジタル放送とBS・110度CSデジタル放送の同時視聴・録画には対応しておりません。
・録画した番組を再生するには、録画時に使っていた本商品とパソコンが必要です。他のパソコンでは再生できません。
・録画時のパソコンのマザーボードを交換したり、本商品が故障した場合、他のパソコンに本商品をつけなおした場合には、それまでに録画した番組は再生できなくなります。
・使っていた本商品を他の環境で使うには、本商品の初期化が必要です。その場合、それまでに録画した番組は再生できなくなります。
・本商品や録画データを保存したハードディスクが壊れた場合、今まで録画した番組を再生できなくなります。
 コピーの回数にとどまらず、再生機器や保存方法まで広範に制約されているのですから、まさに、ガチガチの縛りです。
 IODATAの「GV-MVP/AZ」とPLEXの「PX-W3U4」を比べると次のようになります。なお、「PX-W3U4」の旧製品は12,000円前後でした。
  GV-MVP/AZ PX-W3U4
コピー ダビング10 自由 
同時視聴・録画 地上波かBS、1番組  地上波2+BS2=4番組 
TVソフト mAgicTV(ポンコツ) TVTest(優れモノ)
B-CASカード 付属 なし
値段 11,000円前後 16,000円前後 

コピーワンスとB-CASは直接の関係はない
 コピーワンスの仕組みは次のようになっています(kenのムービー計画<用語説明>「CPRM、AACS、AVCREC」)。

 録画もコピーに含まれるので、「一度しかコピーできない」コピーワンスでは録画データはコピーできないことになります。ただし、ブルーレイ・DVDレコーダーに内蔵されているHDDに録画したデータは、ブルーレイやDVDにムーブはできます(元のデータは消去されます)。
 コピーワンスなどのコピー制御信号(CCI)は、放送電波に乗って送られてきます。ブルーレイ・DVDレコーダーでHDDに録画するとき、CCIを「ノーモアコピー」に書き換えるので、ムーブしかできなくなります。ブルーレイやDVDにムーブした録画データは、CPRMやAACSなどのコピープロテクトがかかるので、それ以上はコピーできなくなります。
 ダビング10では、8回目のコピーまでは、元のデータはコピーワンスのままです。9回目のコピーでノーモアコピーに書き換えられるので、10回目はムーブしかできなくなり、元のデータは消去されます。
 以上の処理は、ブルーレイ・DVDレコーダーのプログラムで行われます。したがって、B-CASカードによるスクランブル解除とは直接の関係はありません。ただし、後述するように、B-CASは、このようなコピー「規制」を、より確実にする役割を果たしています。

B-CAS、本来は有料放送のためのもの
 B-CAS社のページ のデータからB-CASカードの沿革をまとめてみました。
2000.  2 B-CAS社設立
5 B-CASカード支給開始
12 BSデジタル放送開始、BS有料放送の視聴契約とNHK-BSの自動表示メッセージにシステムを提供
2002.  6 総務省令改正(無料デジタル放送でもスクランブル利用が可能に)
2003.12 地上デジタル放送開始
2004.  4 NHKと民放の地上・BSデジタル放送のコンテンツ保護にB-CASカードの利用開始
2005.10 地上デジタル専用カード支給開始
2011.  3 全てのB-CASカードのユーザー登録廃止
2012.  8 コンテンツ保護「新方式」の運用開始
 B-CAS社は、「ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ」という社名が示しているように、BSデジタル放送の限定受信システムを業務とする株式会社です。限定受信システムとは、放送電波にスクランブルをかけておき、B-CASカードを使って、契約者の受信装置だけ復号するというシステムです。
 株主は、NHK、BS民放各社、WOWOW、スター・チャンネル、東芝、パナソニック、日立です。
 NHKが出資したのは、設置確認メッセージ表示システムを利用するためです。NHKのBSデジタル放送を受信すると画面に設置確認メッセージが表示されます。メッセージを消去するためには、NHKに名前、住所、B-CASカード番号を登録しなければなりません。NHKと契約していなければ、この登録情報に基づいて契約を求められます。契約を拒否しても、「設置者に承諾の意思表示を命じる判決」が出れば、契約は成立します(最高裁大法廷,放送法の受信料制度を合憲と判断)。
 一方、これとは別に「故障時の交換や紛失・盗難時の再発行など」を名目に、B-CASカードのユーザー登録を促していましたが、ユーザーからの反発を招いていました。さらに、2003年に個人情報保護法が成立したこともあり、2004年からは、「登録は任意(お願い事項)」となり((株)B-CASにおける  「個人情報保護」について)、2011年に廃止されています。

無料放送にスクランブル?!
 2003年12月の地上デジタル放送開始直前、NHKと民放連が突然、「2004年4月から、すべてのデジタル放送にコピーワンスを導入する」と発表しました(地上デジタル/BSデジタルの全番組が来春よりコピーワンスに)。
 しかし、著作権法にはコピーワンスなどという規定はありません。「私的使用のための複製」(著作権法第30条)には、回数制限はありません。したがって、コピーワンスは業界団体の申し合わせに過ぎませんから、それを無視した録画機を製造しても、法的は何の問題もありません。
 そこで、業界団体の申し合わせに従わせるため、「無料放送にスクランブルをかける」という奇策が登場します。
 その方法は、無料放送にスクランブルをかけ、B-CASカードがなければ視聴できないようにした上で、申し合わせに従わない録画機のメーカーには、B-CASカードを支給しないというものです(地上デジタルテレビ放送コンテンツ保護方式に係るDpa認定について)。 

 2002年6月の総務省令改正で、無料放送にスクランブルがかけることができるようになり、2004年4月から、実際にスクランブルがかけられました。そして、2000年12月、BSデジタル放送が始まったときは、無料放送にスクランブルをかけることは想定しておらず、200万台の受信機のB-CASカードには暗号解除鍵がなかったので、放送波を使ったアップデートの形で対応したということですから( B-CAS社の透明化に努めます)、まさに泥縄式のドタバタ劇だったわけです。
 総務省のデータによると、米国、フランス、韓国のいずれにおいても、デジタル放送におけるコピー制御は存在しないということです( コンテンツの利用に係る諸外国の動向等)。日本でも、業界の申し合わせによりコピーが制限されているだけで、著作権法はコピーの自由を認めています。

B-CASカード書き換えは犯罪行為
 ユーザーの「コピーの自由」への渇望は、次のように、さまざまのビジネスを産み出しました。
2006/2 アースソフト、PV3(アナログビデオ キャプチャボード)発売
2007/11 Friio(フリーオ)発売( 放送業界を揺るがすコピーフリーの地デジ受信機「フリーオ」を入手衝撃のコピーフリー受信機「フリーオ」、その仕組みをひもとく
2008/10 PT1発売( あらゆるデジタル放送を最大4チャンネル同時受信できるパソコン向けチューナー「PT1」が登場わずか5枚の「PT1」に150人が殺到――深夜のアキバで“一瞬の祭”
2010/6 plex、地上デジタル・BS・CS 3波対応 USB接続TVチューナー PX-S3U発売
2012/6 B-CAS改造でブロガー「平成の龍馬」逮捕
2013/6 不正B-CASカードを約2500枚販売し、およそ7000万円を得ていた男が逮捕される
2018/9 ACAS方式の運用が開始
2019/2 不正B-CAS作成・使用容疑で家電販売業の町議逮捕
2020/7 不正B-CASで無料視聴容疑で国交省技官逮捕―警視庁
 コピー制限回避の方法は、次の4つに分類されます。
種類 違法性
PV3:アナログキャプチャー 合法
Friio:B-CASの解除キーで複合 シュリンクラップ契約違反
リッピングソフト  違法?使うだけなら罰則なし 
B-CASカード書き換え 犯罪行為として処罰
 PV3は、アースソフトが販売していたアナログキャプチャー機器です。以前は、チューナーにD端子というアナログ出力端子がありました。そこからアナログ情報を出力しキャプチャーするものです。
 FriioやPT1などのパソコン用テレビチューナーは、単なるデジタルチューナーです。ユーザーが、ICカードリーダーで、B-CASの解除キーを読み取り、無料放送のスクランブルを解除し「業界の申し合わせ」を無視しているだけなので現行法には触れません。ただし、シュリンクラップ契約(一方的に押し付けられた契約)違反にはなります(B-CASカード使用許諾契約約款参照)。
 リッピングソフトは、DVDやブルーレイディスクのコピープロテクトを外すのに使います。ユーザーが自分でかけたプロテクトを外すのは法に触れるのか、疑問もありますが、いずれにしてもリッピングソフトを使うだけなら、罰則はありません。
 以上に対し、B-CASカードを書き換えて、WOWOWやスカパー!をタダで見るのは、犯罪行為として処罰されています。
 行為と罰条は次のとおりです。
B-CASカード改造 電磁的記録不正作出罪(刑法第161条の2) 
改造カード使用 電磁的記録不正供用罪(刑法第161条の2
改造カード販売や改造プログラム公開 不正競争防止法第2条第1項第18号
不正競争防止法第21条第2項第4号 
 カード改造や使用が、「人の事務処理を誤らせる目的」や「人の事務処理の用に供する」ことになるのかは疑問の余地もありますが、裁判所は犯罪の成立を認めています(B-CAS カードのデータを改変する行為について刑法第161条の2第1項,改変した B-CAS カードを被告人が所有する機器に挿入した行為について同条第3項の成立を認めた事例)。  

B-CASカードは、いずれなくなる?
 2018年12月から、ACASという新しいCAS方式が始まっています。新方式は、4K8Kテレビに採用されている方式で、ACASチップが内蔵されています。一方、2KテレビではB-CASカード方式が存続し、両者は当分併用されます( 新たなCAS機能に関する検討分科会(第4回)配布資料/一次とりまとめ(案))。

 2012年、「平成の龍馬」というブログでB-CASカードを書き換える方法が紹介され、B-CASシステムの欠陥が明らかとなりました。
 その後、対策が施されているようですが、それも次々と破られ、不正にB-CASカードを書き換えたとして摘発された、という事件が最近でもマスコミで報じられています。根本的な対策が困難ということになれば、B-CASカードは、いずれなくなるのでしょうか。
 単に、コピー「規制」を回避するにとどまらず、B-CASカードを書き換え、有料放送をタダで見るというのは、犯罪行為だと思います。
 しかし、全視聴者にB-CASカード使用を強制し、しかも欠陥カードを配布したB-CAS社にも、犯罪を誘発した責任はあるのではないでしょうか。