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 ウェブぺージと著作権(5)「時事の報道」とは何か
2020/7/10改定 
●「時事の報道」は著作物ではない
 著作権法10条2項は、新聞記事について次のように定めています。
 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。  
 ということは、「時事の報道」つまり新聞記事はすべて著作物ではなくなるのでしょうか。
 この点については、「同項の意味は,死亡記事や人事異動記事など誰が書いても同じになるような事実に忠実な報道のことを意味し,新聞記者の個性が現れる場合や,社説,その他の学術的な記事については,著作権は成立するとするのが通説」で、その根拠は「事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道とは,単なる事実のみからなるものであって,思想または感情の創作的表現とはいえず,誰が書いても同じになってしまう」ことにあるそうです(高林龍著「標準著作権法」35ページ)。

●10条2項は確認事項なのか
 しかし、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)のですから、「単なる事実のみからなるものであって,思想または感情の創作的表現とはいえ」ないものは、そもそも著作物とはいえず、上述の10条2項はそのことを繰り返した単なる確認事項となってしまいます。もちろん、無駄な立法ではあるけれど、確認事項であるという解釈も成り立つわけで、通説はそのような立場を採っているようです。
 このような通説の立場では、少しでもある程度の長文にわたる場合には、転載などに利用することは著作権侵害になってしいますが、高林龍著「標準著作権法(36ページ)はそれに対し、「しかし,むしろこういった類の情報は広く公衆に周知させることに価値があるのであって,著作権法は著作権の制限をするにとどめることなく,これらの時事の報道記事等は言語の著作物に該当しないとして,著作権の成立自体を否定したものと解するのが妥当ではあるまいか。」と反論しています。

●「時事の報道」の範囲を広く捉える意見も
 では、具体的には、どのような記事が「時事の報道」と考えられるでしょうか。この点、高林龍著「標準著作権法(37〜38ページ)は次のように述べています。「時事の報道」の範囲を広く捉える意見だといえるでしょう。
……南日本新聞2009年8月10日(共同通信社配信)の見出し「栃木・岩舟町長リコール成立合併めぐり住民投票」の記事を以下に掲げる。「住民の意向を無視して合併協議を休止したとして,栃木県岩舟町の住民団体が求めた針谷育造町長に対する解職請求(リコール)の住民投票が9日行われ,即日開票の結果,賛成票が有効投票の過半数に達しリコールが成立した。投票率は65.70%。リコールへの賛成は5269票,反対は4511票だった。当日有権者数は1万5048人。50日以内に出直し町長選が行われる。岩舟町は昨年7月,合併先を問う住民投票を行い,投票数が最も多かった佐野市と合併協議会を設置した。しかし針谷町長は『合併方式について町内の意思統一が図れない』として,今年3月に合併協議を休止した。針谷町は『住民投票を尊重して協議をした。合併協議会は満場一致で休止を決定している』との弁明書を出している」。このような内容であるならば,これは一般的な意味での創作性が必ずしも認められないとはいえないが,時事に関する事実そのものの報道として著作物性を否定すべき場合に該当するといえるだろう。……

社説をウェブぺージに転載できるのか
 著作権法39条は次のように定めています。
 新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
 この条文を、平易な普通の日本語に直すと、「社説は、特に禁止されない限り、他の新聞や雑誌に転載できるし、テレビやCATV、ネット配信(アップロードも含む)の番組で利用することができる。」ということになります。
 では、ウェブぺージに社説を、(引用ではなくても)転載することはできるのでしょうか。新聞・雑誌・放送局は法人ですが、ウェブぺージは個人が開設するものが大半です。しかし、法人と個人で異なった扱いをする合理的理由はないので、ウェブぺージに転載することも認められていると解する余地はあるのではないでしょうか。
 社説にツッCOM というサイトでは、全国の新聞社説を転載していますが、今のところ問題とはなっていないようです。