パソコン / Windows 10
 Windows 8 に続き、Windows 10 Sモードも失敗か
2019/4/4
 Windows 8 の全面スタート画面は、あまりにも不評だったため軌道修正されましたが、マイクロソフトは、Windows 10 Sモードなるもので、アプリ市場独占支配に再挑戦しました。しかし、今回もこの試みは失敗そうです。こんなことをしている暇があったら、Windows 10 をもう少しましなOSにすることに、少しでも力を割いて欲しいものです。
 
ストア以外のアプリケーションは使えない  
 マイクロソフトが2017年5月に発表したSurface Laptopでは Windows 10 S( 「Windows 10 S」「Surface Laptop」に対する期待と不安)を、独立したエディションとして採用しました。Windows 10 Sは2018年4月、Windows 10 Sモードに変更されました。 
 Windows 10 Sモードは、独立したエディションではなく、付属的な機能とすることにより、Surface Laptop以外のすべての Windows 10 に拡大しようというものです。
 Windows 10 SモードとWindows 10 Home、Windows 10 Proの機能を比較すると次の表のようになっています(Windows 10 SモードとWindows 10 Home/Pro 機能の違いとSモードを解除する方法も!、表は一部加工してあります )。朱色で強調したのは、Sモード特有の機能(というよりも制限 )です。黄色で強調したのは、SモードとProにはあるが、Homeにはない(個人で使うならどうでも良い、ビジネス向けの)機能です。
  Sモード Home Pro
Windows ストア以外のアプリケーション ×
オンプレミスのドメイン参加 ×
Azure AD ドメイン参加 ×
Windowsストアのアプリ
ビジネス向けWindowsストア ×
Windows Update for Business ×
モバイル デバイス管理 (MDM) 制限 ○  
Bitlocker(USBメモリやDVD-ROMなどを保護) ×
Azure ADのEnterprise State Roaming ×
共有 PC 構成 ×
ブラウザ Microsoft
Edgeのみ
他のブラウザにも対応
検索エンジン Bingのみ 変更可能
 ビジネス向けの機能が必要であれば、Proを選ぶでしょうし、個人のユーザーなら、Homeで十分です。つまり、Windows 10 Sは、マイクロソフトストア経由のアプリケーションソフトしか使えない、ということ以外には、これといった利点(?)のないエディションのWindows だったといえます。
 
一定数以上のユーザーは、Windows 10 S に納得?
 Surface Laptop の Windows 10 Sは、無料アップグレード対象期間内ならWindows 10 Proに無償で移行できるが、アップグレードしてしまえば、Windows 10 Sには戻せない(ただし、初期状態に戻せば、 Windows 10 S として使用可能)という変則的なOSでした。
 Windows 10 Sのユーザー滞留率については、次のような情報があります( 「Windows 10 S」を新しい動作モードとして広めようとするMicrosoft)。「Windows 10 Sのユーザー滞留率は60%」とはいうものの、「Surface Laptopが含まれない」「全体から見れば母数が比較的少ない」「サードパーティー製デバイス」のみを対象としているのは、何らかの意図による情報操作の可能性が疑われます。
 ここで興味深いデータがある。米Thurrott.comでWindows関連動向に詳しいブラッド・サムス氏が2月3日(米国時間)に報じた調査結果だが、Microsoftによれば、サードパーティー製デバイスにおけるWindows 10 Sのユーザー滞留率は60%に達するという。
 またWindows 10 Proにアップグレードしたユーザーの60%が購入から24時間以内にそれを実施する一方で、購入から1週間以上アップグレードしなかったユーザーの実に83%がそのままWindows 10 Sの状態で使い続けているという。 
 もっとも、該当する製品は全体から見れば母数が比較的少ない上、Windows 10 SからProへの無料アップグレードが2018年3月まで提供されるSurface Laptopが含まれないという問題がある。
 ただ、「Windows 10 Sで納得」しているユーザーは一定数以上いるということであり、これにMicrosoftが多少なりとも自信を持ったのか、より「S」をプッシュする方向性を明らかにしつつある。
 この「サードパーティー製デバイス」とは、例えば「Lenovo N24」のような「教育機関での利用に適した普及型モデル」を指すものと思われます(Windows 10 S搭載のフルクラウド型PC「Lenovo N24」発表)。生徒が勝手にアプリケーションソフトを入れることを防止し、クラウドで使うためには、Windows 10 S が都合が良いといえます。そのような特殊な用途のデバイスだから、「滞留率は60%」となったと考えられます。
 
アメリカの教育市場では Chrome OS が圧倒的なシェア
 PCのオペレーティングシステム(OS)の出荷数では、Windowsが圧倒的なシェアを誇っていますが、次のグラフが示すようにアメリカの教育市場に関しては、Chrome OS(Chromebook に搭載)が圧倒的なシェアを占めています( レノボが国内投入する「Chromebook」は教育市場で成功するか?)。

 Chrome OSは、次の表のように登場から4年で大躍進を遂げたことになります。一方、iOS・macOSは首位から3位に転落しました。ただし、2016年時点で金額ベースでは、iOS・macOSは、なお首位を維持しているそうです(グーグルが大躍進する米教育市場--MSやアップルと異なる“草の根”戦略参照)。
  Chrome OS  Windows iOS・macOS
2016年 58% 21.6% 19%
 金額ベース 19億ドル 25億ドル 28億ドル
2012年 1%未満 43% 52%
 このような状況下で、マイクロソフトが Windows 10 S を投入しましたが、「Windows 10 Sには、189ドル(約2万円)からという安価なノートPCが各社から用意されており、GoogleのChromebookに対抗するという位置付け」だった(Microsoftが軽量版Windowsの「Windows 10 S」とChromebook対抗の教育向け激安ノートPCを発表)ということですから、教育市場におけるChrome OSの大躍進に対し、巻き返しをかける意図が見て取れます。 

6万円の Lenovo N24 を4万8000円で買えた?
 2017年5月に Windows 10 S が発表されましたが、その年の10月には日本でもレノボ・ジャパンが、教育現場向けの Windows 10 S 搭載PCを発表しています(教育現場での利用にもおすすめ11.6型マルチモードPC)。
 ところが、それから間もない2018年5月には、同じレノボ・ジャパンが、教育現場向けの Chrome OS 搭載PCを発表し(レノボのChromebook「Lenovo 300e/500e」が日本上陸。4万8000円?でThinkPad譲りの堅牢性とキータッチを。2018年5月発売)。さらに、2018年5月には、その後継機種を発表しています(レノボ、「Lenovo 300e Chromebook」「Lenovo 500e Chromebook」の2019年モデルを発表 )。
 それぞれの性能は次のとおりです。 
  Lenovo N24
製品番号 81AF001LJP 81AF001MJP 81AF001QJP
価格 \65,000 \60,000 \48,000
OS  Windows 10 Pro 64   Windows10 S 64
CPU  Celeron N3450
周波数 1.10GHz
コア数 4
メモリー  4GB
eMMC 128GB 64GB 
  11.6型 
  1.45kg 
発表日 2017/10/11
  Lenovo500eChromebook Lenovo300eChromebook
製品番号 81MC000DJP 81ES000GJP 81MB000BJP 81H0000QJP
価格 \58,000 \48,000
OS  Chrome OS
CPU  N4100 N3450 N4000 MediaTek
MT8173C
周波数 1.10GHz 1.10GHz 2.10GHz
コア数 4 2 4
メモリー 4GB 4GB
eMMC 32GB 32GB
  11.6型 11.6型
  1.32kg 1.35kg 1.35kg
発表日 2019/2/26 2018/5/15 2019/2/26 2018/5/15
 Windows10 S 64 搭載の Lenovo N24 と Chrome OS 搭載のLenovo300e Chromebook は、機械性能はほとんど変わらず、値段も同じく税別48,000円です。Chrome OS が無料であることを考えれば(なぜGoogleはChrome OSを無料で提供するのか)、 Lenovo N24
の方が割安といえそうです。マイクロソフトは、教育市場のシェア拡大を狙って、Windows10 S 64 を無料で提供したということでしょうか。レノボ・ジャパンは、儲けを削ってまでWindows10 のシェア拡大に協力する義務はありませんから、そう考えるのが自然のように思われます。
 一方、Windows10 S 64 搭載の Lenovo N24 を買って、さっさと無料で Windows 10 Pro に移行してしまえば、6万円の Lenovo N24 を4万8000円で買えたことになります。


Windows 10 S は実質的に消滅
 マイクロソフトは、2017年7月20日、Windows 10 S を搭載した  Surface Laptop を発売しました(「Surface Laptop」日本で7月20日発売 12万6800円から)。当初は、Windows 10 Proへの無償アップグレード期間を2017年12月31日までとしていましたが、その後、期間を2018年3月31日までに延長しました。期間終了後のアップグレードは、6900円の有償になるということでした( 「Surface Laptop」の「Windows 10 Pro」への無料更新、来年3月末までに延長)。
 さらに、マイクロソフトは、2018年3月7日、Windows 10 Sの機能を「S Mode」とし、すべてのエディションへ導入する計画を明らかにしました(Microsoft、安全・快適な“S Mode”を「Windows 10」のすべてのエディションへ導入)。マイクロソフトは、「新しい Windows 10 デバイスを購入するときは、PC の製造元によって S モードを有効にした状態で販売されているデバイスを選択してください」と呼びかけています(Windows 10 (S モード) に関してよくあるご質問)、この文脈からは、S モードを有効にした状態で販売するかどうかはメーカーの裁量に任されているものと推測されます(ネットで調べた限りでは、S モードを有効にしたメーカー製PCは売られていないようです)。
 一方、Windows 10 Sについては「2018 年 4 月の Windows 10 更新プログラムのリリースで、"Windows 10 S" が Windows 10 の特定モード ("S モード") にな」るということです(Windows 10 (S モード) に関してよくあるご質問)。S モードは、いつでも無料で解除できますから、Windows 10 Sの無償アップグレード期間も無期限に延長されたことになります。つまり、Windows 10 Sは実質的に消滅したということです。
  
S モードは Surface Go だけ?  
 Surface は、マイクロソフトが製造販売しているPCの総称です。
 初代Surface は、米国で2012年に発売され、Surface Pro、Surface Book、Surface Studio、Surface Laptop、Surface Goと品揃えが拡張されています。米国での発売時期は次の表とおりです(【比較表】Surface 1〜3 / Surface Pro 1〜6のスペック比較!?から引用)。 
機種 OS 発売年
Surface RT 2012
Surface Pro 8 Pro 2013
Surface 2 RT 8.1 2013
Surface Pro 2 8.1 Pro 2013
Surface Pro 3 8.1 Pro 2014
Surface 3 8.1 Pro 2015
Surface Pro 4 10 Pro 2015
Surface Book 10 Pro 2015
Surface Studio 10 Pro 2016
Surface Book WithPerformance Base 10 Pro 2016
(New) Surface Pro 10 Pro 2017
Surface Laptop 10 Pro (S mode) 2017
Surface Book 2 10 Pro 2017
Surface Pro LTEadvanced 10 Pro 2017
Surface Go 10 Home (S mode) 2018
Surface Pro 6 10 Home 2018
Surface Laptop 2 10 Home 2018
Surface Studio 2 10 Pro 2018
 大まかに分類すると、Surface、Surface Pro、Surface GoはタブレットPC(黄色、重量にはキーボードの重さは含まれていません)、Surface Book、Surface LaptopはノートPC(青色)、Surface StudioはデスクトップPC(緑色)となります。なお、Surface ProとSurface Goは、キーボードを付ければノートPCのようにも使えるという意味で2-in-1と呼ばれています。
  CPU 画面インチ 重量 g
Surface  NVIDIA Tegra→Intel Atom 10.6→10.8 675→641
Surface Pro m3、i5、i7→i5、i7  12.3  782→784
Surface Book i5、i7 13.5、15 1,534
1,905
Surface Studio i5、i7→i7 28 9.56 kg
Surface Laptop i5、i7  13.5 1,283 
Surface Go Pentium Gold   10  522 
 初代Surfaceは完全な失敗作でした。初代Surfaceには、Windows RTが搭載されていましたが、これはアンドロイド版Windows とでもいえるもので、デスクトップ用ソフトが使えなくて、Windows Store経由でしかアプリをインストールできないというものでした(Windows RTではできないこと)。
 WindowsPhoneと同様に、Windows RTタブレットも全く売れず、マイクロソフトは完全撤退しています( Windows RTは大失敗? 開発完全終了をマイクロソフトも認める)。 
 その後、「Windows Store(現Microsoft Store)経由でしかアプリをインストールできないようにする」という戦略は、Surface LaptopのWindows10 S 、その拡大版とでもいうべきWindows 10 (S モード)へ引き継がれます。しかし、現状では S モードを有効にした状態で販売されているのはSurface Goだけのようです。Surface Laptop 2ですら、通常のWindows 10 Homeが搭載されています。さらに、Surface GO で Windows 10 Sモードを解除できないという問題も生じているようです( Surface GO などで Windows 10 Sモードを解除できない )。
 アプリ市場独占支配への挑戦は今回も失敗しそうです。

Surface は今後どうなるのか 
 米国のConsumer Reports誌は「Surfaceシリーズの故障・返品率が25%に達している」との調査結果をとりまとめ、全Microsoft製品(2in1やノートPCなど)に対し推奨を取りやめると発表。Microsoftはこれに対し、Surface Pro 4およびSurface Bookの故障・返品率は25%を大きく下回ると反論しているそうです(「Surfaceの故障・返品率は25%。推奨に値しない」との調査結果にMicrosoftが反論)。 
 また、イギリスのテック系メディアThe Registerによると、Lenovo社長が「2019年にマイクロソフトがSurfaceブランドの事業を終了する」と発言したもの、マイクソフトは正式にそれを否定したということです( Surfaceブランドは2019年で終了!?Microsoftの責任者の正式コメントは?)。 
 2015年のデータでは、マイクソフトの収益のうち、Windows は約10%、Surface は5%を占めているそうです(巨大化するグーグル、マイクロソフト、アップル--何で儲けているのか)。

 この数字だけを見ると、Windows に比べ、Surface は結構健闘しているようにも思えます。ただし、開発費以外のコストがほんとんど掛からない Windows に比べ、Surface は機械類の製造コストが掛かる上、売れ残れば損失も生じます。
 さて、Surface は今後どうなるのでしょうか。